第9話 君がいる休日

 あの翌日にはすっかり体調が良くなったようで、元気そうに笑顔を見せる彼女に安心した。


それはそうと次の休みはどうしようか

映画?

喫茶店?

ドライブ?


眉間に皺を寄せながら珈琲を口へ運ぶ。


「順さん、考え事ですか?」


「考え事というか、次の休日どこか行きたいところとかありますか?」


「それで真剣に悩んでくれてたんですね」

彼女はいつものように綺麗に笑う


「お恥ずかしながら、あまり交際などには慣れていないもので」


「どこへ行くかよりも

誰といるかがきっと大切です

私の場合は順さんがいればどこへでも」


「さらっと雫さんはそういうことを伝えてくるの少しずるいですよ」


「フフッ、自分の感情を抑えるのは苦手分野みたいです」


「じゃぁ、僕の家とかはどうですか?

実はあまり人混みが好きじゃなくて

もちろん嫌いとかではないですけど」


「順さんの家、どんな感じなんでしょう

気になってたので行ってみたいです」


「特におしゃれでも、何か面白いものがあるわけではないので期待しないでください」

僕は少し慌てて彼女に伝える


「では次の日曜日に

また場所とかはメッセージで決めましょう」


「はい、ではまた」

普段なら一緒に途中まで帰るのだが、今日は僕に予定があってアイビーでの解散になった。


____


         日曜日

午前11時に近くの駅に彼女を迎えにいく。


いつもとはまた違った雰囲気で、綺麗なベージュのコートを着て少し赤くなった耳を両手で温めている彼女を見つけた。


「こんにちは、お待たせしました。

寒かったでしょ?中で待っていてくれたら良かったのに」

僕がそういうと


「少しでも早く貴方を見つけたいとそう思うとその時間すら惜しく思えてきてしまって」

そういう彼女の吐く息は白く

頬も少し赤くなっていた。


「風邪をひかれたら心配です。

大切な人なんですから」

僕は小声でボソッと呟く


「え?何か言いましたか?」


「何でもないです、行きましょう」

彼女の手をとり、僕の家へと向かう。


本当に何もない家だが散らかってはいない。

潔癖や綺麗好きともまた違うが、整えるのは好きな方だった。


「順さん、片付けるのが上手なんですね。

雰囲気とか私は好きですよ」


「物が少ないだけかもしれませんが」

少し笑いながら僕は席を立つ


「雫さんも珈琲で良かったですか?」


「ええ、ありがとうございます」


ペーパーのフィルターを使おうと引き出しから取り出す


「順さんはいつもハンドドリップなんですか?」


「いつも、ではないですが時間に余裕があったりする時はなるべくそうしてます」


「私、珈琲は好きだけどアイビー以外では間近で淹れるところ見たことないかもしれません。

隣で見ていてもいいですか?」


「ええ、もちろん」

彼女が横に来る

隣で歩いたり、座ったり、慣れているはずなのに何故だろう

2人だけの空間だからか、いつにも増して緊張してしまう。


カップを2つ取り出して珈琲を注ぐ。


珈琲を飲みながらいつものように静かに2人での会話を楽しむ


コツン

右肩に彼女の頭が当たる

どうやら疲れて寝てしまったようだ。


そっと頭に手を回し


僕も少しだけ彼女に寄りかかる


いつもとはまた違う


金木犀と珈琲の香りが部屋を包む


出会ってくれて

付き合ってくれて

一緒にいてくれてありがとう


これからは君に愛してると伝えていこう


今はまだ、ありがとうで許してください


僕の精一杯の君への想い


そんなことを考えながらまぶたを閉じる


幸せな時間を胸に刻むかのように


時計の秒針の音が響く


君といる時間がゆっくりと流れてゆく


まるで僕達の歩幅に合わせるかのように

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