第6話 貴方から君へと変わる日

 あれからも、毎日のようにアイビーで雫さんとのあたたかな時間を過ごし、

お互いの仕事の話や好きなものなどを話した。


ある日、いつものように川沿いのベンチで昼の休憩時間を過ごしていると、なにやら見覚えのある女性がこちらへと歩いてくる。


女性もこちらへ気付く。


「順さんこんにちは

こんなところで会うなんて驚きました」


「僕も驚きました。

雫さんも休憩ですか?」


「そうなんです、少し外の空気を吸いたくなって川沿いを散歩しながら休めるところを探していました。

ご一緒してもいいですか?」


「ええ、もちろん。

アイビーでお会いするので近いのかな、とは思ってたんですが、まさかここで会うとは思ってなかったです」


そう言って僕はベンチの端に移動し、雫さんの座れるスペースをつくる。


「じゃぁお隣失礼しますね」


「雫さんとアイビー以外でお会いするのは初めてなのでなんだか新鮮な感覚です」


「言われてみればそうですね。

順さんとお会いするのが当たり前になっていましたが、そう言われると私もそんな感覚です。」


いざ2人となると会話がうまく出てこない。


「良かったらまた今度お食事でもどうですか?」

僕は勇気を出して食事に彼女を誘う。


「ぜひ。私は土日が休みなので休みの日であればいつでも大丈夫ですよ」


「では次の土曜日はどうですか?」


「はい、順さんの貴重な私服姿が見られるわけですね」

彼女は少しいたずらに笑う。


「あまり服とかに詳しくなくて結局いつもシャツとか着てしまうんです。

雫さんは何か食べたいものとかありますか?」


「なんでも好きですが、パスタを食べたい気分です」


「パスタいいですね

最近食べてないからもう食べたい気分になってきました」


「フフッ、食い意地張ってるなんて思わないでくださいね?」

そう言いながら彼女は少し照れているような表情を隠すかのように口元を手で覆った。


「そんなこと思いませんよ

では僕は仕事に戻ります。

また連絡します、それでは。」


「楽しみにしてますね、ではまた。」


今日は木曜日だから

あと2日かと考えながら既に緊張でどうにかなってしまいそうだ。


それからも何度か連絡を取り合い

土曜日の午前11時に、川沿いの時計下で待ち合わせようということになった。


いつもはしない髪の毛のセットも少しだけして

服は結局シンプル

だが彼女の隣にいて恥ずかしくない男性でありたいと、いつもより背筋を伸ばす。


待ち合わせの30分前に僕が着くとそのほんの少し後に


「順さんこんにちは

早く着いたつもりでしたが順さんの方が先でしたね」


「こんにちは

僕もほんの数分前に来たの雫さんがすぐにきて少し驚きました」


「フフッ、お互いに早く行動するタイプでしょうか?」


「雫さんと会う日だと思ったら家にいる時間に耐えられなくて早く来てしまいました。」


いつもの僕と違う

何故だろう

僕の心の何かがこの日は違っていた気がする


彼女は顔を横にし、少し見える頬が赤くなっているのを隠していた。


ランチでパスタを食べ

映画を観て

雑貨を見て

少し薄暗くなり始めた川沿いを2人で歩く


風が少し冷たいが心地が良い


「今日はありがとうございます」

僕はそう彼女に伝える


「こちらこそ

とても楽しい時間を過ごせました。」


僕と彼女は目を合わせながら

次の言葉を口にせず

辺りの音だけが静かに時間を進ませる


「雫さん

初めてアイビーで貴方を見た時から好きです。

お互いの時間を、同じ場所で過ごして

そんな空間がとても好きです

これからも貴方との時間を共有したい

そう思います。

お付き合いしてもらえないでしょうか」


「はい、私で良ければお願いします。」


緊張?

嬉しさ?

幸せ?


この時の気持ちは

言葉ではいい表せられないだろう。


僕と彼女は互いの顔を恥ずかしそうに

見つめ合いながらゆっくりと歩み始める


これからは君と見る世界が少しでも

同じでありますようにとそっと願う。


今だけは

君を見つめていたい


もう少ししたら君と同じ方向を


躓いたりしないよう


互いに前を向いて進むから




     貴方から君へと変わる日。




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