第3話 宝物
彼女が出張に行き1週間が経っていた。
その間も僕はアイビーへと足を運び続けた、いつの間にかこの空間ごと、空気ごと僕の宝物になっていたんだろう。
宝物なんて子供みたいだと言われるだろうか、この気持ちに名前をつけるなら宝物という言葉が1番似合う気がするのだ。
差し込む光
珈琲を淹れる店主
綺麗な色の珈琲
珈琲の香りに溶け合う彼女の付ける
全てが輝いて
今までのモノクロの世界が光と輝きに満ちている、そんな感情だ。
カランッ
そんなことを考えていると彼女が来た。
遊園地の遠足前に寝られなかった幼少期のような気持ちでそわそわとしているのが多分隠しきれていない。
「こんばんは」と彼女が微笑みかける
「こんばんは、お久しぶりです。出張お疲れ様でした」
なんだこの会社でのやりとりのような会話はと家に帰ってから後悔することになるのはまた別の話だ。
彼女は僕の隣の席へと腰掛ける。
なんの会話もする事はないが珈琲を注ぐ音とこの空間が僕にとってかけがえのない時間となっていた。
「あの」2人の声が重なる
「佐藤さんからどうぞ」
「良ければ連絡先教えてもらえたりしませんか」
僕の鼓動の音が聞こえてしまうのではないかというくらい周りの音が消え去っていた。
目を閉じながら思い切って切り出す。
「ふふっ、はい、ぜひ
私も同じ事を言おうと思っていたところです」
え、僕は驚きの表情を隠せなかった。
連絡先を交換し、アイビーを後にした。
店主に、大切なものほど言葉や行動にしなくては人というものは後から悔いるものですからと言われた言葉を思い出す。
家に帰り、こういう時は男から連絡しないといけないよなと思いながら何度も文章を打ち直す。
これでは長すぎるだろうか
素っ気ないだろうか
そんなことを考えて結局
こんばんは、佐藤です。
の一文
すぐに彼女から返信が来る
こんばんは、高崎です。
こんな時間なのでまたアイビーで。
おやすみなさい
はい、おやすみなさい、またアイビーで。
また、と返してくれたと些細な言葉だがそれが何よりも嬉しくそして愛おしい時間に感じた。
宝物がひとつ、ふたつと増えていく
溢れてしまわないように
握りつぶしてしまわないように
そっと静かに胸に仕舞い込む
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