第10話 23時
さあ、ここからが大忙しです。怪人影男爵の襲撃に、万全の態勢で挑まなければなりません。
五人はさっそく、屋敷のセキュリティ状況の把握をしました。屋敷には、民間のセキュリティサービスが施されています。窓や出入り口が、どこか少しでも開けば、すぐに警報がなる仕組みになっているのです。つまりは、虫一匹でも入り込む余地もない状況の中、怪人影男爵は一体、どのような方法で屋敷に現れるつもりなのでしょうか。
「とりあえず、お茶でもどうぞ。黙り込んでいても、仕方がないでしょう。なんだか辛気臭くて、気持ちが滅入るじゃありませんか」
セキュリティの状況や、屋敷の構造などを把握した探偵団のメンバーたちに、真夜さんは、髙橋さんに言いつけて、コーヒーを出してくれました。
「お茶なんて、飲む気分になれないものですね。緊張しているのかな。やっぱり」
中嶋くんの言葉に、小夜子さんも「まあいいじゃありませんか」と言いました。
「ずっと緊張されていても、疲れるだけですよ。怪人の予告時間まで一時間ほどありますしね」
中嶋くんは、なんだか奇妙な感じを覚えました。緊張しているのは、自分たちだけではないのだろうか? ここにいる小夜子さんや真夜さんは、まるで客でも迎え入れているかのように、落ち着きを払っているのです。自分たちの、藤原家の大切なものが失われるかも知れないというのに——。
「これ、うめえな」
中嶋くんは、はったとして顔を上げます。みんなが手を出さない中、久保くんだけが、目の前のコーヒーを一気に飲み込んでいたのでした。
「久保。ちょっとは遠慮しろよ」
「コーヒーを飲んじゃダメってわけじゃねーだろう? いいじゃん。せっかく出してくれたんだからよ~。飲まないのは失礼だぞ! ほら。
「久保のほうが失礼だよ。ねえ、もっと大人しくできないの」
島貫くんは、大きくため息を吐きますが、久保くんには、その意味がわからないようです。「お前の分も、もらっておくか」と、言いながら島貫くんの目の前のコーヒーをがぶがぶと飲みました。
久保くんを除くメンバーは、ただ黙って座っています。「我こそは探偵団だ」なんて言ってはみたものの、所詮は素人です。影男爵が現れるのかどうか、半信半疑ではあるものの、本当に現れたらどうしたらいいのだろう? と思っているのが正直なところなのです。
「とりあえず、店から、道具になりそうなのを持ってきたよ」
久保くんが大人しくなったので、
「すげー荷物だと思ったら、こんなものを隠し持っていたのかよ」
久保くんは「はー」と感嘆の声を上げました。
「スマホで連絡を取り合うには、
「すげえな。今は色々あるんだな~」
久保くんは、「このペンでガラス割れるってよお。どんな造りだ。こりゃ」とか言いながら、そこに並んでいるものを物色しています。その間に、島貫くんは、それらの品をまとめて、一セットずつみんなに手渡しました。
「どんなものが必要なのかわからない。後は臨機応変に活用してくれ」
「ともかく。影男爵を見つけたら、一人で対応しないこと。必ず応援を呼ぶんだ」
「催涙スプレーなんて使って大丈夫かよ」
「正当防衛にあたるだろう。平気だって」
それぞれが顔を見合わせて、不安気な気持ちを押し込めようと努力しているのがわかります。その後、真夜さんからある一つの提案がありました。
「二人一組になって、見回りをしたらどうかしら」
「確かに。一人で対応をしないほうがいいだろうね」
真夜さんはそれから、すみっこから二人ずつをペアにしていきます。島貫くんと雉子波くん。宮城くんと中嶋くん……。
「おれは?」
久保くんは手を上げます。
「あなたは強そうだもの。一人でもいいんじゃないの」
「えー。いや、いいけどさ」
「でも、こういう緊急事態ですものね。私がご一緒しましょうか」
真夜さんの提案に、メンバーは顔を見合わせました。彼らの不安を感じ取ったのか、真夜さんは明るい声で言いました。
「大丈夫よ。これでも、護身術くらいは習って来たもの。悪いけど、日本だけよ。安全でのんびりとしている国は……」
「足手まといになるなよ」
「そっちこそね」
久保くんと真夜さんはぷんと顔を背けました。どうやら、反りが合わないようです。この二人が組んで大丈夫なのでしょうか。
「23時だね。そろそろ、各チームで部屋を確認して歩こうか。誰か隠れていないか。怪しいところはないか。点検終了後は、ここに集合だ。その間に、なにかあれば、すぐに警笛で知らせること。いいね」
中嶋くんの説明を聞いている間、髙橋さんはティーカップを片付けて、廊下に出ていきました。探偵団と真夜さんは、
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