第9話 藤原真夜さん



 藤原真夜さんと探偵団が面会したのは、予告状にあったXデー当日のことでした。


 真夜さんと対面した中嶋くんたちは、驚きを隠せませんでした。小夜子さんと真夜さんの二人が並んでみると、それはそれは瓜二つだったからです。やはり姉妹なのでしょう。ただ一つ、違っているのは、髪型でした。小夜子さんは、長く伸ばした髪を一つに結わえていましたが、真夜さんは肩のところで短く切りそろえているのです。


「よく似ていると言われます」


 静かに笑みを見せる小夜子さんとは対照的に、真夜さんは、目の前に並んでいる探偵団のことを、挑むように見ているばかりです。どうやら、怪しんでいるようです。


「真夜と会うのは、何年振りかしら?」


 小夜子さんの問いに、真夜さんは、はきはきとした口調で応えました。


「そうねえ。四年ぶりくらいかしら」


「そんなになる?」


「なるわよ。お姉さん」


 真夜さんの言葉は、どこか素っ気ないものです。小夜子さんは黙り込みました。探偵団の五人は、お互いに顔を見合わせます。どうやら、姿形すがたかたちは似ていても、二人の性格は正反対のようです。そして、二人はそう仲が良いというわけではなさそうだな——と中嶋くんは思いました。


 真夜さんは、五人をじろじろと見つめた後、「で、これが噂のおじさん探偵団、ってわけね」と、言いました。


「おじ……、おじさんってよお」


 久保くんが不満そうに声を上げましたが、それを中嶋くんが止めました。


「小夜子さんに依頼されまして……。今回は、できる限り、影男爵の企てを阻止してみせます」


「できる限りって……なんだか頼りにならないなあ」


 怪訝そうな顔をした真夜さんに、小夜子さんが説明をしました。


「警察には相談をしているの。でも、まだ起きてもいない、悪戯みたいな予告状に、警官を派遣することはできません、と言われてしまって。困っていたら、髙橋さんがこの中嶋さんを紹介してくれて……」


 小夜子さんの説明に、真夜さんは耳を傾けていました。なにか文句でも言われそうだと思い、中嶋くんはドキドキしていました。しかし、意外なことに、彼女は「そうですか」と、あっさりと頷きました。


「髙橋さんの紹介なら、——まあ、いいでしょう。日本の警察は当てにならないと聞いていたし。まあ、素人だとしても、探偵と名乗っているのでしょう? その名に懸けて、藤原家の大切なものを守っていただきましょうか」


 彼女の言葉尻には、棘のようなものがちりばめられておりますが、彼女の話し方の特徴なのかも知れないなと、中嶋くんは思いました。そこで、久保くんが彼女に尋ねます。


「おい。嬢ちゃんは、影男爵が狙っているのはなんだと思うんだ?」


 真夜さんは、考え込む様子もなく答えます。


「嬢ちゃんって! 私には真夜っていう名前があるのよ。失礼な男ね。これだから、日本の男は嫌いよ。それにね、この家には、高価なものがあふれているでしょう? 全て——じゃないかしら」


「全て、だと?」


「そうよ。家ごと丸ごと、盗む気だわ」


「そんなこと、できるわけないじゃない。真夜。おふざけは失礼ですよ」


 小夜子さんが口を挟みます。すると、真夜さんは、今度は小夜子さんに視線をやりました。


「じゃあ、お姉さんはなんだと思っているの? この家にとって大切なものって、一体なによ。私はそれが知りたいの。は、なに?」


 真夜さんの問いに、小夜子さんは口ごもりました。答えられないのです。


「この家から一歩も離れられない。あなたは藤原という檻に囲われているのよ。世間知らずのお嬢様」


「そ、そんなんじゃ……」


「くだらない! 私は、くだらないことばっかりでうんざりなの。お父さんが守ろうとするものも、お姉さんが心の中にしまっていることも、全部、全部くだらないわ!」



 黙り込んでしまった小夜子さんの代わりに応えたのは、さかきさんでした。


「真夜さま。小夜子さまを責めてはいけません」


「榊さんは黙っていて。ともかく! 予告状は今夜。今夜の零時れいじよ。探偵団のみなさま、しっかり大切なものを守ってちょうだいね!」


 真夜さんは、悪戯な笑みを浮かべると、廊下に姿を消しました。




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