第2話 36歳男性会社員(IT会社勤め) Ⅱ

秋人は、嬉しい気持ちと、半信半疑な気持ちの間で混乱していた。

秋人は、運転手のことを観察した。運転手は、どこにでもいるようなごく普通の中年の男性で、特に変わったところは見られない。ただ、服装をよく見てみると、白のシャツに黒いネクタイと、喪服の格好をしていた。

本当に、母にもう1度会うことができるのだろうか…。

「お母さまは、どのようなお方だったのですか?」

タクシー運転手が声をかけてきた。

「母は、活発で、とてもポジティブな人でした。いつも明るくて、周りに元気を与えてくれる太陽のような存在でした。実は、私には後悔していることがあるんです。」

「後悔とは…?」

「私の母は5年前、私が31歳の時に亡くなりました。母が亡くなる前の日、私は母と喧嘩をしていたんです。その喧嘩は、私が物を元にあった場所に戻さないことに母が怒って、後で戻すつもりだったんだよと私が反論してというどうしようもない喧嘩だったんです。その喧嘩の仲直りができていない状態で、母は突然、交通事故で亡くなりました。なんであの時すぐに謝らなかったのだろうと今でも後悔しています。」

「そうだったんですね…。今日、仲直りできると良いですね。」

「はい…。」

と、秋人は悲しげに言った。


「着きましたよ。『死者の世界』へ、ようこそ。」

そうこうしている間に、『死者の世界』に到着した。

辺りを見渡してみると、現実世界と変わらない街並みが広がっていた。

「現実世界と、変わらないんですね。」

「そうなんです。お母さまの元へご案内いたします。」

「よろしくお願いします。」


少し真っ直ぐ進み、突き当たりを右に曲がったところには再会センターというものがあった。

「この再会センターで、既に亡くなったあなたが会いたいと望んでいる方に会うことができます。扉の向こうでお母さまがお待ちです。どうぞ中へお入り下さい。」

「はい。」

「ごゆっくりどうぞ。」

秋人は、扉に手をかけ、ドキドキしながら扉を開けて中に入った。そこには秋人がよく知っているニコニコした女性が座っていた。

「母さん!!」

と、秋人は泣きかながら母にとびついた。

「秋人!!また会えて嬉しいわ。」

と、母も涙を流しながら言った。

「母さん、あの時はごめん!ちゃんと物を戻さなかった俺が悪かった。ずっと、仲直りできなかったことを後悔してたんだ。」

「お母さんこそ、ごめんね。ちょっと強く言い過ぎてしまったよ。お母さんも、秋人と仲直りできないまま、こうなってしまったことを後悔していたの。こうして仲直りできて良かったわ。」

と、秋人と母は笑顔でお互いをみていた。

「最近、仕事のほうはどう?」

「大変だけど、頑張ってるよ。実は今度、昇進するんだ!」

「おめでとう!!良かったわね。秋人、あなたは真面目で頑張りすぎてしまうところがあるから、たまには息抜きしなさいね。」

「うん!分かってるよ。母さん、今日は会えて嬉しかったよ。」

「お母さんもよ。また会いに来てほしいな。」

「会いに来るね!」

秋人と母は、笑顔で手を振りながら別れた。


「伊月様、おかえりなさいませ。お母さまと仲直りはできましたか?」

「はい!できました!仲直りできて本当に良かったです。」

「それは良かったです。では、現実の世界へ戻りましょう。」


真っ黒なタクシーは、先程のタクシー乗り場へと戻ってきた。

「おいくらでしょうか?」

「お代は一律1000円です。また、時間の進み方がどちらの世界でも同じとなっていますので、経過した時間分の時間が進んでいます。ご注意下さい。」

「そうなんですね!分かりました。本当に今日はありがとうございました。」

「またのご利用をお待ちしております。」


「さて、次はどのようなお客さまがいらっしゃるのでしょうか。」

真っ黒なタクシーは暗闇の中に消えていった。


<都市伝説の新情報>

・お代は一律1000円

・時間の進み方は、『死者の世界』と現実世界で同じで、経過した時間分、現実世界でも時間が進んでいる。

・1回につき会うことができるのは1名のみ

・何度も利用できる

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