死者の世界へごあんな〜い

久留米くるす

第1話 36歳男性会社員(IT会社勤め) Ⅰ

「あ〜。今日も疲れたな。」

と、1人のサラリーマンがため息をつきながら新宿駅の中を歩いていた。

「今日は特別にタクシーに乗って帰ってしまおうかな。」

そう言ってそのサラリーマンは、タクシー乗り場に向かった。タクシー乗り場についたサラリーマンは、先頭に止まっていたタクシーに無意識に乗り込んだ。

「自宅までお願いしたいのですが、住所は〜です。」

と、サラリーマンはタクシー運転手に言った。それを聞いたタクシー運転手は、サラリーマンのほうを見てこう言った。

「申し訳ございません、お客さま。その行き先は、対応区域外となっております。」

「あ、そうなんですか!どこまで行けますか?」

「このタクシーの行き先は、1ヶ所のみとなっておりまして、その行き先は『死者の世界』となります。」

サラリーマンは、タクシー運転手の言葉を聞き、新宿駅にまつわるある都市伝説を思い出した。


<新宿駅のどこかのタクシー乗り場に毎日午後6時にだけ現れる、真っ黒なタクシー。そのタクシーは、1日1名のお客さましか受け付けない。行き先は、死者の世界で、既に亡くなった生き物(人間、ペットなど)に会いに行くことができる。>


まさか…と、サラリーマンは息を飲んだ。そして、タクシー運転手に尋ねた。

「このタクシーって、人間でもペットでも既に亡くなってしまった生き物に会いに行くことができるというあの都市伝説のタクシーですか?」

「はい。ただし、お会いできるのは1名となります。」

本当だったんだ…と、サラリーマンは驚愕した。

「お客さまのもう1度お会いしたい方は、どなたですか?」

と、タクシー運転手はサラリーマンに尋ねた。

「えっと…。5年前に亡くなった母にもう1度会いたいです。」

と、半信半疑にサラリーマンは言った。

「行き先はお母さまということでよろしいでしょうか。」

「はい。」

「かしこまりました。では、お客さまのお名前と、亡くなったお母さまのお名前を教えてください。」

「私の名前は伊月秋人いづきしゅうとで、母の名前は伊月春日いづきはるかです。」

「ありがとうございます。では、これから伊月春日様の元へ向かいます。」

「よろしくお願いします。」

そして運転手は、タクシーを目的地に向かって走らせた。

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