§ 2―7 自ら命を絶つという罪



 という天咲あまさきひびきは、ニコニコ顔のまま、軽い感じで話し始める。


「それでは、最初に自己紹介からね。私は天咲響。名前はもう言ったっけ。それで、私は導き手と呼ばれる役職でここにいる霊神れいこう庁の職員よ」


「霊神庁? 」


「えぇ。簡単に言えば天国の役所って言えばイメージしやすいかな。そこの第3修霊院ってところからここに派遣されて来てるの」


「天国? 本当に天国なんてものがあるとは……」


「そりゃ、地獄があるんだから天国だってあるでしょ? 」


「……。なんでおれや愛菜みたいな自殺者は地獄にいるんだ? 」


「それは神さまが決めたルールだからねー。せっかく人間として転生てんせいさせたのに、自分で命を絶つのが許されると思う? そんな霊魂は地獄で自殺という罪を浄化させることになってるのよ」


「自殺は罪……なのか? 」


「天国ではそうなってるわ。だけど、自分で命を絶つぐらいだから、現世でいろいろ大変だったのは解かってるわ。そこで、現世でいう未成年者に限り、特例が設けられたの。それがここ、無人むびと界なのよ」


無人むびと界? 」


「そう。ここは地獄でも8層ある、一番上部の第1層に設けられた無人むびと用の隔離された場所なの。無人むびとっていうのは、自殺した人間の霊魂のことね」


「……」


 最初にこの地に来たときにあった、石碑に書かれた内容を思い出す。



【 自から命を絶った者よ。地獄へようこそ。


 授けた命を自ら捨てる愚か者には、地獄で苦痛と悔恨の念に苛まれ続けるがよい。


 そうすれば、罪は浄化され、人ではない、何も感じない生き物に生まれ変われるだろう。


 されど、罪を顧み、苦難を乗り越えれば、人として再び、肉体をいただくだろう。


 さぁ、足元にある刃を選び、それを持ちて、命の価値を示すがよい。  】



「要は、ここで自殺した未成年者を選別してるってことだな? 」


「お! 理解が早いわね。まぁ、選別っていうより、救済と言った方が正しいわね。本当の地獄に行ったら、人間に生まれ変わるには、何十年、何百年と浄化され続けなきゃいけないからね」


「浄化って言うのは……」


「そう。きみが今思ったとおり、死を繰り返すこと。それによって、罪を犯す心を一度無にして、そこから少しずつ心を持つ生き物に転生していくのよ。何度も転生を繰り返し、しっかり生きようとする心が持てたときに、人に転生するわけね」


 そんなことになると解かっていたら、自殺する人も減るだろう。



 蓮が選ぶ結果は変わらないだろうが……


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