§ 2―6 戻り着いた神殿にて



 戦いだけを繰り返した時が終わり、石の階段を登っていく。階段はぽつぽつとある松明に柔らかく照らされている。


 5分ほど登ると階段は行き止まり、そこには180cm以上の鉄の扉があった。無造作に扉を開けると、いきなり地下に落とされた神殿に出た。


 周りの様子をうかがう。妙な文様があしらわれている赤い布が敷かれた祭壇があり、その傍に愛菜が槍を壁にたて掛け、うつむいて座っていた。


 ゆっくり近づいても、反応がない。どうやら寝ているようだ。そのとき、急に後ろから話かけられる。


「あら、お疲れ様。ようやく終わったのね」


 聞き覚えがある。振り返り確かめると、やはりそこには白いローブを着た天咲あまさき ひびきと名乗った女がいた。蓮は刀の柄を握り、にらみつけ問いかける。


「……よく顔が出せるな! 」


 彼女のにこにこ顔が、余計、神経をさかなでる。


「そんなに怒らないでよ。あそこに落とすのが手っ取り早いのよ」


「手っ取り早い? 何がだ! ふざけるなよ! 」


 そう言い終わるのと同時に、彼女は急に飛び掛かり、木の棒を振るう。それに対して、蓮は瞬時に鞘から刀を抜き、振り下ろされる木の棒を叩き斬る。間髪入れずに手首を返して放った斬撃は、彼女の左手のガントレットに当たり、「キィィーン」と金属音が鳴る。


「へぇ~。大したものね。驚いたわ」


 彼女は左腕で受けている刀を、右の素手でつかむ。それは信じられない力で、どんなに力を入れても刀を動かすことができない。


「くっ! 」


霊神れいこう力の使い方はだいぶ身に付いたみたいね。思ってた以上よ」


 そのまま、れんをはるかに超える力で刀身をつかみながら、刀を握る蓮の身体ごと頭上に持ち上げ、そのまま壁に投げつけた。


「グハッ! 」


「……はぁ。少し落ち着きなさい。力で来ても無駄なのはわかったでしょ? 」


 何回も、何十回も殺されることになった地下に落とした張本人を、そう簡単に許せるはずもない。力が及ばなかろうがあらがうしかない。そんな怒りが渦巻いているところに、横から愛菜がけ寄る。


「蓮。落ち着いて。あの人はもう私たちを殺そうとはしないわ」


「どうしてだ! そんなこと簡単には信じられない! 」


「あの人の話を聴けばわかるわ。それに、戦っても、おそらく無駄。あの強さは次元が違うわ……」


 確かに次元が違う強さなのは解かった。あれほど戦い続けて身につけたものが全く通じないのだから。愛菜の悔しそうな顔を見て、少しは冷静になる。


「……チィ。わかった。とりあえず、話を聴くよ」


「そうして。聴けばあなたにも解かるはずだから。鳴無 蓮くん」


「! なんで名前を」


「私は導き手だからね。ここまで来る人のことぐらい予習してあるわよ」


 様子を伺っていた白ローブの天咲 響はゆったりと歩み寄ってくる。


「まぁ、怒るのも無理ないわね。ごめんなさいね」


「あぁ。とりあえず話を聴く。それに今度はこっちの質問にも答えてもらうぞ」


「えぇ。答えられる範囲でね。それじゃ、えーっと、まずはこの地獄についてから話すとするかな。長くなるからリラックスして聞いてね」


 愛菜も蓮の横に座り、壁に寄りかかる。


 蓮も一旦、怒りを心のすみに追いやり、耳を傾けることにした。


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