§ 2―5 闇に咲く、蒼き火花



 またこの暗闇か……。目覚めてすぐ、横にあるほこらを見るのは30回を超えてるだろう。すっかり見慣れたものだ。もはや恐怖や痛みより、この一瞬だけが戦わずに済むわずかな時間になっていた。だが、目覚めた一瞬だけの安らぎで、すぐに次の戦いが始まることに絶望する。


 この空洞では、戦い、殺され、目覚めてはまた戦う、が繰り返される。心が折れようとも逃げることはできない。目覚めて10秒もすれば、鉄仮面が襲ってくるからである。


 あの鉄仮面を倒すしか、このループされる死から逃れるすべはない。そのためには、あの女が言った霊神れいこう力に頼るしかない。



 ふらふらと立ち上がり、一瞬、これまでの戦いのトライ&エラーを反芻はんすうする。そして、刀を鞘から抜き、動き出す。


 5度ほど受けることから始めたが、何もできずに斬られただけだった。こっちから攻めなければ。その思いから、自然と走り出す。


 互いに走り近づく。間合いに入る刹那せつな、反射に近い速さで足に意識を送り、一瞬で間合いを詰め、同時に刀にも意識を送り、蒼き刃で斬りつける。


 鉄仮面はなんなくこれを刃で受け止める。そして、即座に切り返し、刃を振るってくる。


 蓮も受けられることは想定しており、次の行動に切り替え、鉄仮面の返す刀に、刀を合わせる。この攻防が何度も続く。


 相手の攻撃に反応が遅れれば意識が遅れ、足にも刀にも霊神れいこう力がはたらかなくなる。だからと言って、1つの斬撃を少しでもおこたると、刃ははじかれ、その隙に斬りつけられる。1つ1つを丁寧に、しかし、意識を集中し過ぎないように行う。


 刃と刃の衝突が、蒼い火花を生み出す。意識が無意識になり、刹那のせめぎ合いの中、自問をする。


(あぁ……おれは、なんで戦っているんだ? 何のために? 誰のために……?)


(そうだ。約束したからだ。どんな約束だっけ?)


(……守るため……)


(愛菜を守る……そうだった。約束じゃない。決意だ)


(……何があっても愛菜を守り通すって自分で決めたんだ!)



 蓮の目に光りが戻る。


 鉄仮面の返す刀に、一歩踏み込み、蒼く輝く左腕のガントレットで斬撃を受ける。ふところに入り横一文字に振るった刃は、後ろにかわされる。


 即座にブーツの霊神珠れいこうじゅが輝く。後ろ脚を蹴り、下がった鉄仮面に追撃をかける。


「うおぉぉ」


 勢いそのままに突きを繰り出すが、鉄仮面は身体をひねり、かわしながら回転して袈裟けさ斬りを繰り出そうとする。


「ここだ!」


 繰り出した突きの手首を返し、一瞬早く逆袈裟を振るう。


 鉄仮面の刃は蓮の肩の手前で止まる。


 逆に、鉄の胸当ては斜めに切れ、血が噴き出し、糸の切れた人形のように後ろに倒れた。


「はぁ……はぁ……はぁ……勝ったのか?」


 終わりのない戦いの終わりに、信じられない気持ちで鉄仮面を見下ろす。突然のことに、薄暗い空洞の静寂に、わずかな寂しさが胸に去来きょらいする。


 突如、祠の近くの壁が開いた。


 鉄仮面に背を向け、開いた出口に近づくと、先には上り階段が続いている。



 空洞を出る蓮は、最後に振り向き、小さく呟く。


「……ありがとう」


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