§ 2―3 白いローブの女 ②導き手



 ……。目が覚める。建物の中。随分ずいぶんと高い天井は、綺麗な石造りで、ところどころに神秘的な模様が刻まれており、金の燭台しょくだいの光に照らされている。


 上体を起こそうとすると左腕に違和感を感じた。腕をかかげると、そこには金属の籠手こて、いや、西洋の騎士がするガントレットが肘の手前まで覆っていた。金属のプレートがつむいであり、手の甲には薄く青みがかった半球形の水晶がかざられている。


 あわてて上体を起こす。荘厳そうごんな趣きの壁にも金の燭台の炎が揺らぎ、丁寧に加工された石柱が立ち並ぶ。広い空間の奥には大きな祭壇があり、文様が描かれた赤い布がかれている。床は精工に敷き詰められた石床で、愛菜と護が倒れていた。あわてて呼びかける。


「愛菜! 護! 」


 立ち上がると、左腕のガントレット以外にも、腰には刀が納められたさやが備え付けられた腰袋が巻かれている。靴も見覚えのないブーツをいていた。鞘と刀の柄頭つかがしらにも、ガントレットやブーツについている半球形の水晶の装飾がされている。


「うぅ……」


 愛菜も護も、蓮の呼びかけで目が覚めたらしく、起き上がろうとして、同じように装着しているガントレットやブーツに驚いていた。愛菜だけは、左肩からたすきに掛けられた腰袋をしている。


 それぞれ武器も様子が変わっていた。愛菜の槍は前の槍と比べると、長く鋭くなったと黒い重厚感のあるつかをしており、その接合部は、ひし形で金色の金属に半球形の水晶の飾りがついている。護の弓も、金属で補強されており、弓の上部と下部に、水晶球が取り付けられている。



「ようやく、起きたようね」


 3人とも、見慣れぬ場所と格好に不思議がっているところに女の声で呼びかけられる。その声の聞こえた祭壇を見る。そこには、先ほどの白服がいつの間にか座っていた。肩には尾が2つある黒猫が乗っかって、こちらを見つめている。


 咄嗟とっさに3人とも武器に手を置き、臨戦態勢をとる。


「待った、待った! もう戦わないから、落ち着いて」


 フードを目深まぶかにかぶった白服の女は、慌てるように両手を突き出し、違う、違うと手を振る。わざとらしい態度に戸惑う。先ほど殺された相手が言うことを、すぐに受け入れることはできない。構えをくずさずに蓮は問う。


「あなたは? 」


「私は天咲あまさき ひびきみちびき手よ」


 そう言うと、かぶったフードを上げる。


 栗毛色の肩より長い髪に、両耳に水晶球の飾りがついた耳飾りが蒼く輝く。少し垂れている目が、幼く見せるが、20代の女性であることは解かる。よく見ると、胸元に文様もんようの描かれた飾りがついた白いローブを着ており、体格も華奢きゃしゃに思える。さっき戦った力など微塵みじんも感じさせられない。


「じゃぁ、さっさと説明するわね」


 彼女はニコニコとした笑みを浮かべて、少し高い声で話し出す。


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