§ 1―22 そのとき、刃、蒼く輝く



「やぁっ!」


 作戦通りに矢が放たれた。顔を上げ矢の軌跡を追う。目に当たった! と思ったその矢は、少し外れ目じりに刺さった。


「グアアアァァァァ!」


 痛みからか、怒りからか、今まで以上の大きさで巨躯の化け物は声を上げた。蓮も愛菜も、あまりの声量に一瞬耳をふさぐ。


 そこに、サイクロプスの右腕が払うように愛菜を襲う。必死に槍で受けるも、尋常じんじょうならざるその力で、愛菜は5mほど吹き飛ばされた。


 次に振るわれた右腕を、蓮は何とか後ろに飛び回避する。怒りあらわうなりながら棍棒を拾い、右足を踏ん張り立ち上がったサイクロプスは、護に目がけて棍棒を放り投げた。


「なっ!? 護!」


 呼びかける声と同方向に、回転しながら放られた棍棒は、ワンバウンドして護を襲った。ほこりが巻き上がり、その中に倒れている護がぼんやり見えた。


「護! 大丈夫か!」


 蓮の呼びかけに何の返事も返ってこない。


 唸り声をさらに上げ、左足を引きづり近寄ってくるサイクロプスの奥に、倒れている愛菜が目に入る。動悸が激しくなる。蓮は自問自答する。


(愛菜……護……おれはまた守れないのか? 父さん……おれはやっぱりダメだ……ダメなんだ)


 茫然ぼうぜんとする蓮に拳を振り上げたとき、横から飛んできた矢がサイクロプスの脇腹に刺さる。


「蓮くん!」


「護!」


 まだ生きていた! それだけで蓮は泣きそうになる。頭の中で、夢で聞いた父の声を思い出す。


(なんだ、終わりか? 自分でやるって言ったのに、もう諦めるのか?)


 頭を軽く降り、亡き父の言葉を否定する。


(いや……もう、諦めないよ! 父さん)


 蓮の目に光りが宿やどる。命ある限り、守り切る。それだけが蓮の全てになる。



 目の前のサイクロプスが振り下ろした拳をわずかにかわし、叩きつけられた衝撃に意も返さずに、手首の内側を横に斬り払う。


 切られた手首から血飛沫ちしぶきがあがる。サイクロプスは悲鳴を上げ、上体を起こし手首を押さえる。その隙に、蓮はアキレス腱を切った左足の膝を横から刀を突き刺す。


 さらに悲鳴を上げ、膝をつく。怒り狂い、右の拳で蓮に殴りかかる。蓮は顔色を変えず、刀の先に左手をえ、片膝を曲げ、その拳を受け止める。足元の木の床は、拳の威力にへこむ。そのとき、蓮の刀の刃はあおい光沢に輝き、にらみつけたその眼光に、サイクロプスは一瞬、ひるみ動きが止まる。


 そこに矢が飛来ひらいし、見事にサイクロプスの眼球に突き刺さった。蓮が視線を送ると、膝に手を置き、息を切らし、立っているのがやっとな感じの護を確認した。


 膝をついたまま、両手で顔を押さえ苦しむサイクロプスに視線を戻す。躊躇なく前に突っ込み、隙だらけの腹部に両手で刃を突き立て、そのまま払い、腹部を斬り裂く。


 サイクロプスは断末魔を上げる。顔を押さえていた手を腹部に移し、前かがみになる。待っていたと言わんばかりに、蓮は懐に入り、飛び上がり、下からサイクロプスの首を斬りつけた。


 断末魔は消え、激しく噴き出す血を浴びる中、立ちくしていた蓮の刀の蒼き輝きは消えていった。


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