§ 1―20 一つ目の巨人



 鉄の扉の中、そこは薄暗い木造の四角い空間だった。部屋といっても相当広い。学校の体育館程度だろうか。痛んだ木の床で、高い屋根からは、ところどころ隙間から木漏こもれ日が差し込んでいる。


「……進むしかないわね」


「そう……だな」


 視界の悪さに最大限の警戒をしながら、3人は足を進める。


 そのとき、入ってきた扉を叩く無数の音が響き出す。


「なっ!」


 驚くと同時に、薄暗い空間が明るくなる。壁に掛けてある松明がいくつも青く輝き始めたのだ。そして、奥で起き上がる巨大な『なにか』が、1つしかない巨大な目を開き、明らかにこちらを見た。


 3mはあろう巨大な一つ目は、全身青白く、流々の筋肉を露出させ、恥部ちぶを隠す布切れをまとっていた。右腕に巨大ないくつもの突起がある棍棒を握っている。髪がない代わりに1本角が目の上についており、ゴブリン同様に、口元には2本の象のような牙が生えている。


 圧倒的な威圧感が空気を冷たく重くする。3人はその脅威にひるむ。


「あれは……なによ?」


「あの一つ目に角は、サイクロプスか? でか過ぎる……」


「あ……あんなのとどう戦うの? 無理だよ……」


 愕然がくぜんとする中、蓮だけが歯を食いしばり、恐怖にあらがう。守らなければならない。なんとしても。その衝動にすがり付く。


水無月みなづき十二月田しわすだ。あいつを倒すしかない!」


「な! あ、あんなのをどうやって倒すっていうの?」


「目を狙うんだ! 十二月田しわすだの弓なら狙えるだろ」


「え! ぼ、ぼくがやるの? そ、そんなの無理だよ……」


「それしかないんだ! おれと水無月さんで動きを止めるから、そこを狙ってくれ」


「……。はー……ふぅー……。分かった、やってみる……よ」


 護は、必死な蓮の瞳に気圧けおされ、足を震えさせやむを得なくうなずき、深呼吸した。なんとかやる気になってくれた護の次に、愛菜にも立ち回りの指示をする。


「とりあえず、動き回って気をそららすんだ。攻めるのは、矢が当たってからだ」


 愛菜はサイクロプスを凝視ぎょうししながら、頷いてこたえる。



 禍々まがまがしいうなり声を上げる。1歩1歩地響きをともないながら、サイクロプスが動き出す。


「……護! 頼んだぞ!」


 えて下の名前で蓮は呼んだ。この戦いは3人で力を合わせないと、到底生き残れないことを無意識に感じてのことだ。


「わ、わかったよ……。蓮くん」


 護も蓮の意図を組んで下の名前で呼んだ。


 横にいる愛菜に視線を送ると、愛菜もこちらに視線を合わせ、一緒に頷く。視線を前に戻し、近寄ってくる一つ目を見つめて意を決する。


「行くよ! 愛菜!」


「えぇ、蓮!」


 2人は同時に走り出す。それに対してサイクロプスはうなりを上げる。


「グアァァァッ!」


 巨大な咆哮ほうこうに負けないように、サイクロプスの注意を引くように、刀を強く握りしめ、蓮も大きく勝鬨かちどきを上げる。


「うおぉぉぉ!」


 恐怖に支配されまいと、蓮と愛菜は一斉に走り出した。


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