§ 1―16 無知への罰
中学生になり、愛菜は部活動に打ち込んだ。バスケットボール部に入ったきっかけは、友達の沢村香苗に誘われたからだ。部活はハードだったが、それが親交を深め、初めて仲の良い親友と呼べる友達ができたのは、愛菜にとって支えになった。
中学3年の最後の大会の後、打ち上げで行ったファミレス帰りに、ふいに告白された。その相手は男子バスケットボール部の部長をしていた篠崎圭太。周りからの人気があり、中性的な顔立ちの俗に言うイケメンだ。愛菜も
最後の大会後、心の
少しでも彼と一緒に過ごしたいと、愛菜は受験勉強を必死にし、その甲斐もあり彼と同じ高校に進学することができた。
しかし、ここからだった。彼女の人生が
高校1年のGWの最後の日、妊娠していたことがわかった。両親には言えない。彼に伝えるのも怖くて、親友である沢村香苗と他2人の元バスケ部に相談する。「やばいじゃん!」「降ろすしかないよ」と言われ、最後に「困ったことがあったら相談してね。できることはするから」と励まされたのは、純粋に嬉しかった。
その次の日曜日。スマホで彼に連絡し、親のいない家に慣れた足取りで入って来た彼に、そのことを伝えた。彼は「どうしよう……」と
スマホで中絶について調べると、どの医院でも、親の同意書と数万円の費用が掛かる。親になんて相談したくもない。死んでも妊娠したなど言えない。その旨を彼に伝えると「わかった。なんとかするから少し待ってて」と言うので、彼に任せることにした。体調も悪くなり、入りたての部活も辞めた。空いた時間が増え、寂しさを埋めるために彼に連絡しても、返事は徐々に遅くなりはじめ、「もう少し待って」「お金が必要で今集めてるから」と、いつも同じ返答の繰り返しだった。
6月中旬、2週間ぶりに彼からメッセージが届く。『なんとかお金を用意できないか?』と書いてあった。以前のように、彼と過ごせるのではと思い、唯一頼れる中学時代の友人たちにお金の相談をしたところ「ごめん。今、お金無くて」と断られたのは、愛菜にとってショックだった。
彼に「ごめん……。お金……集められなかった」と、かき集めた自分の3万円を渡すと、今度は「やっぱり親に相談するしかない」と返事をされたが、それだけは受け入れられなかった。
彼とは連絡がほとんど取れなくなっていた7月。事件が起きた。連絡が取れない彼と話すために登校した放課後、階段から突き落とされた。転げ落ち、気を失い、病院に運ばれると、赤ちゃんは流産していた。
妊娠していたことを知った両親は、すっかり身体と気持ちが病んでいた愛菜を
退院してからは、学校にも行かず、部屋で彼からの返事を待ち続ける日々を過ごした。
8月の終わり。お昼を買いにコンビニに行ったとき、偶然、彼を見かけた。横に一緒に歩く中学時代の友人、沢村香苗と腕を組んでいるところを。
次の日、沢村香苗に電話をすると「今、彼とつきあっているんだ。愛菜からしつこく連絡がくるのを迷惑がってるから止めてよ!」と言われ
9月に、学校帰りの彼を待ち伏せて、彼に問いただす。
「どうして返事してくれないの?」
「もううんざりなんだよ。子供も堕ろせたし、よかっただろ? あの事故は友達にお願いして、やってもらったんだよ。お前から預かった3万円でさ。今、香苗と付き合ってるからもう連絡しないでくれ」
愛菜は頭の中が真っ白になり
それから3日後。自分の部屋で、ふと目に入ったスマホの画面の反射で、髪が真っ白になっていたことに気づいた。まるで老婆のような髪。それが彼女にとってのスイッチだった。
愛菜は、湯舟で手首を切った。
そして、目覚めた地獄で見た石碑の内容に、希望を見つけた。生まれ変わりなどというものがあるならば、人として生まれ変われれば、殺してしまった赤ちゃんの生まれ変わりに会えるかもしれないと。
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