5話 事件翌日の朝

翌日。

昨日のことで疲れていたのかぐっすり眠っていたようだ。起きてみるとすでに日は高く昇っていて昼前ぐらいだろうか。


「さてと。まずは朝食を食べに行きましょう」


そう思って部屋を出て食堂へ向かっていたのだが……。


「ユリヤ様!」


廊下に出ると私を見つけるなり駆け寄ってくる少女がいた。


「あら、リリー。おはようございます」


この子はリリアナ・ド・ラ・リュゼ。

私の従姉妹にあたる子だ。

ちなみに彼女は伯爵家の娘でもある。


「ユリヤ様!大丈夫でしたか!?怪我とかありませんか!?」

「え、ええ。特に何もなかったわ」

「本当によかったです~」


目に涙を浮かべながら抱き着いてくる。

見た目は幼く見えるがこれで私より一つ年上なのだ。


「心配してくれてありがとう。でももう安心よ」

「本当ですか?」

「ええ」


実際あれくらいならどうってことはないだろう。

キールも助けてくれたしね。


「ところで何をしていたんですか?」

「ちょっと昼食を取りに行くところだったんだけど……一緒に行く?」

「はい!!」


満面の笑みを見せて返事をした。


(かわいい)


思わず頭を撫でてしまう。

すると顔を赤くしながらも嬉しそうな表情を見せた。


「さて行きましょう」

「はい」


二人で並んで食堂まで歩いていく。


「それでさっきは何をしてたの?」

「実はお父様に呼び出されていまして。これから行ってくる予定なんですよ」

「へぇ。なんの話かしら?」

「多分ユリヤ様のことだと思うのですけど」

「私?」

「はい。お父様はユリヤ様のことが大好きなので」「まあ昔から可愛がってくれているとは思うけれど」

「はい。それは間違いないと思います」

「一体何を話し合うつもりなのかしら?」

「わかりません。でもお母様曰くあまりいい話ではなさそうだということです」

「ふーん」


何を話す気なのだろうか? そもそも私はあの男のことをほとんど知らない。

知っていることと言えば父親が皇帝だということだけ。

でもそれだけだと何とも言えない。

そんなことを考えていたらいつの間にか食堂に辿りついてしまった。


「あ、着きましたね」

「そうみたいね」

「それじゃあ入りましょう」


中に入ると使用人らしき人たちが忙しく働いていた。


「あ、ユリヤ様。おはようございます」


私を見つけたメイドの一人が声をかけてきた。

確か名前はミアさん。

よく覚えていないけど年齢は20代前半といったところだろうか。


「おはようございます」

「昨日は大変だったようで。大丈夫でしたか?」

「ええ、大丈夫よ。それよりお昼ごはんはあるかしら?」

「はい。承知しました」


そう言って厨房の方に向かっていった。


「そういえばリリーのお父様はこの屋敷にいるのかしら?」

「いえ。今は帝都の方にいます」

「そう」

「いつもはこっちに戻ってきますけど今回は少し長くなるらしいです」

「そうなの?」

「はい。なんでも大事な用事があるらしくて……」

「へぇ」


まぁ大体予想はつく。

恐らく今回の件について色々聞かれるのだろう。


「お待たせしました」


しばらく待っていると料理を持ってきてくれた。


「こちらになります」

「ありがとう」


目の前に置かれたのはサンドイッチとサラダとスープ。

とりあえずお腹が減っていたので早速食べることにした。


「美味しい」


一口食べてみて思わず感想が出てしまう。


「本当に。シェフに伝えておきます」

「お願いします」

「それにしても昨日は大変でしたね」

「ええ」

「まさかあんなことになるなんて」

「全くだわ」

「でもユリヤ様が無事で本当によかったです」

「リリーもありがとう」

「え、わ、私ですか!?」


急に話を振られたからかびっくりしていた。


「ええ。私を心配してくれてたんでしょ」

「そ、それはもちろんです!」

「だからありがとう」

「い、いえ。当然のことをしただけです」

「それでもよ」

「はい」

「でもどうして私のことをそこまで心配してくれるの?」

「それは……」

「やっぱり私が可愛いからだよね?」


冗談めかして聞いてみる。


「ち、違いますよ!もちろんそれもありますけど。一番は……その……好きなんです」

「好き?」

「はい……あ、愛していると言い替えても構いません」

「…………え?」

今この子は何と言った?

「ごめんなさい。もう一度言ってくれません?」

「はい。私はユリヤ様を愛しています」

「……」

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