4話 婚約破棄の後始末

「ただいま帰りました」

「おお。無事で何よりだよ」

「ありがとうございます。それでお父様。少しお願いがあるのですけど」

「なんだ?」

「その……今回の件に関してちょっと色々ありまして」

「わかった。詳しい話は部屋に戻ってから聞こう」

「はい」


そう言ってから自室へ向かう。


「ふう」


部屋に着いて一息つく。


「今回は本当に死ぬかと思ったわ」


改めて自分の置かれている立場を再認識させられた一日だった。


「さてと。これからどうしようかしら?」


正直これ以上関わりたくないというのが本音だ。

だが相手は腐っても貴族。しかも侯爵家だ。

このまま放っておいてもいいことにはならないだろう。

どうしたものか。

悩んでいると部屋のドアをノックする音が聞こえてくる。


「失礼します」


入ってきたのは私の侍女であるマリーだ。

彼女は優秀で実家が代々仕えている男爵家のメイド長を務めていて、私が幼いころからの付き合いである。


「あら、どうかしましたの?」

「はい。旦那様がお呼びになっております。至急執務室にくるようにとのことです」

「わかりました。すぐに行きましょう」

「ではこちらへ」


私は彼女に案内されてお父様のいる執務室へと向かう。コンコン


「ユリヤです。参りました」

「入りなさい」

「失礼します」


中に入るとそこにはいつも通り書類仕事に勤しむお父様の姿があった。


「よく来たな。とりあえずそこに座りなさい」

「はい」


言われるままにソファーに座る。


「さて。先ほどの事について詳しく話を聴かせてもらおうかな?」

「はい」


私はキールさんに助けられてからのことを話した。


「ふーん。なるほどねえ。確かにそれは厄介なことになったね」

「はい」

「まあいいじゃないか。ちょうどいい機会だしこれを機に縁を切るというのは?」

「そんな簡単にできるものでしょうか?」

「まあ普通は難しい。でも君の場合は状況が特殊だからね。何せ君は王子に気にいられた身だ。そんな子に嫌がらせをするのは自らの地位をも危うくさせる」

「そういうものですか?」

「ああ。だから今のうちに婚約を破棄しておいた方がいいんだよ」

「婚約破棄ですか……」


正直乗り気ではない。

だって私はあの王子が好きになれないのだ。

イケメンなのは認めるが中身が伴っていないというか。

もっと言えば軽薄な印象しか受けない。


「それに今回の一件で侯爵家は地位が格下げになるかもしれない」

「え?どうしてですか?」

「そりゃあ暫定でも婚約者が攫われてそれを見過ごしたんだ。責任問題になりかねないからね」

「ああ。そうですね」

「だから婚約破棄してしまえばそういった面倒なことにもならない」

「確かにそうかもしれません」

「それに侯爵家が没落したら逆恨みして君に何かするかもしれないぞ」

「うっ」

「別に結婚しろと言っているわけではない。ただ今までのように貴族として生活していくには無駄な恨みを買わないことが必要だ。そう考えると婚約破棄は悪いことじゃない」

「そうですね」

「まあ決めるのはお前だ。ゆっくり考えればいい」

「はい」


そう言われて一旦保留することにした。


「それじゃあそろそろ時間だ。今日はもう休みなさい」

「はい。それではおやすみなさい」

「ああ。おやすみ」


そしてこの日はそのまま眠りについた。

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