第2話 すずらん

スズランは、常に友人や姉妹のような年上の少女達に囲まれているような、社交的な少女だった。

彼女は、灰色で…時折オーロラのように緑色が瞬く不思議な色の瞳をしていて、それをきょろきょろと動かしては人の様子を伺い、その人の欲しいもの…欲しい言葉を理解して与えるのが得意だった。

退屈ではないか、と思う者もいるだろう。しかし、スズランにとっては誰かとの軋轢もなく静かに暮らしていける事は最高の幸福である。

穏やかな、丸い目を輝かせながらスズランは今日も、周囲の人々に気を配り生活していた。


「聞いた?Aクラスのヒナギクさん。カミサマに選ばれたらしいよ。ピアノの名手だし…あの、アザミ様のお気に入りだもの、納得よね。」

「でも、あの子がいなくなったからさ、あなたアザミ様に近づけると思ってるんじゃない?あなたじゃ無理よ、カミサマに選ばれるくらいじゃなきゃ。」

「もー!意地悪!ひどいわ、ねえ、スズラン!」


施設は、居住区と教育区に分かれていて、少女達はその二つの区間を行き来してすごす。敷地はとても広く…確かめようと試みた少女もいたが、そのいずれも志半ばで諦めてしまうほどだった。

教育区では、体をしなやかにするバレエと、赤ん坊の作り方、生物がどうやって産まれるか。多種多様な語学を学び、それ以外は思い思いに過ごすことが許されていた。

スズランは、昼下がりの食堂で少しのお菓子と紅茶を囲みながら、友人であるスミレとナズナに挟まれる。問題は、だいたいスミレがファンである、絶世の美少女…アザミの話題になった時である。ナズナはスミレが、この話題をするといつも機嫌を損ねてしまう…どうやら、ナズナは密かにスミレに恋をしているのかもしれない。

彼女は考える。この場合は何が適切なのかを。

「ナズナちゃん、スミレちゃんが選ばれたらもう、こうしてお話できなくなるんだよ?それは寂しいよ…」

「スミレちゃんも。アザミちゃん…ヒナギクちゃんがいなくなって、とても寂しそうだった。…今は、そっとしてあげよう?」

二人は、まあ…そうね、と気まずそうに呟きながらも何とか言い争う事をやめてしまう。

スズランは、ほっと肩を撫で下ろしながら、暖かな紅茶を啜るのだ。…いつもと変わらない日常。


それが変わってしまったのは、ひまわりの咲く季節のことだった。

スズランが、カミサマに選ばれたのだ。

どうやら、彼女の複雑な色をした瞳が気に入られたらしい。皆が、彼女の門出を祝い祝福の言葉を述べた。皆のために尽くしてきた彼女だからこそ、そのカミサマの選択は皆も納得できるものであった。

スズランも、これからの事を考えると不安で胸が張り裂けそうな思いではあったが、皆が笑顔で「おめでとう。」「あなたならカミサマに選ばれると思っていたわ。」「元気でね。」と祝辞を述べるたびに、彼女は月明かりの星空のような瞳を輝かせ、「ありがとう。」と答えることしかできなかった。

この不安を口に出してしまったら、彼女達の表情まめ不安に染めてしまうことになるだろう。スズランには、それがどうしても出来なかった。

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