第21話 彼女の話
今は、秋なので、俺たちは天文部に所属しているが、天文部は、ほとんど活動していない。
単なる星好きが集まっているだけの部活だ。
だから、天文部でもお互いが勝手に活動するということが多くあるみたい。
天文部の活動は、している奴もあるけど、俺の友達のタケシの奴が、同じ部活の理沙ちゃんに、ちょっかい出して、雰囲気が悪い。
タケシも部活にきていないし、理沙ちゃんも、部活に来ていない。
理沙ちゃんは、お母さんから部活をやめるように言われているそうだ。
全員が揃っても、少ない部員だったので、2人が休むと、さらに少なりなり、部として活動をしようにもできない。
タケシの件で全員が、いい迷惑をこうむっている。
なので、俺たちも、今日は部活を早めに終わらせて、帰るところ。
帰る途中に、タケシが電柱に寄りかかって立っているのが見える。
俺たちはタケシに近づいて、「タケシ、どうしたんだ?」
と声をかけると、「なぁ、悠人、今日、理沙ちゃん部活出ていたか」
「いいや、いなかったぞ」
「そうか~、はぁ~」なんだか落ち込んでいる。
それだけ言うと、トボトボ勝手に一人で歩きだして、言ってしまった。
「なんだ、あいつ」
「よっぽど、ショックみたいだね」
「そうだね、まったくタケシの奴は、いたらしいことするからだよ」
「あれっ悠くんが、それを言うの」
「えっ、やば…」
「悠くんの方も色々とエッチだよね」
「……」
「この前なんか、足がつったとき、何していたかな?」
「それはですね、七海さん…」
「はい、なんですか、お聞きしましょ」
「えーっとですね、七海さん…」俺は答えが、しどろもどろ。
「男は好きな人にはエッチになるんです」
「えっ」顔を赤くする七海ちゃん
「悠くんは私のこと好き?」
「もちろんだよ、七海ちゃんのこと大好きだよ」
「私もね、悠くんのこと好き」
ここでキスしそうな雰囲気だったけど、はっとして気づいて公衆の面前なのでやめた。
「帰ろうか?」
「うん、そうだね」
俺は七海ちゃんのうちに帰ってきた。
「悠くん、あがっていく?」
「そうだね、お邪魔させてもらうね」
そして七海ちゃんは玄関を開けて、「お母さん、ただいま」と言って上がっていった。
俺も「お邪魔します」といって入っていった。
そこに七海ちゃんのお母さんが顔を出して、「おかえりなさい、いらっしゃい」と言ってくれた。
そして俺は1人でリビングに座った。
七海ちゃんは着替えに部屋にいっている。
「この前は悠くん、ごめんね」
「えっ何のことですか?」
「婚約の件…」
「いえでも、急だったから驚きました」
「七海ったらね、昔から、あなたのことが好きなのよね、うちは主人の急な転勤で慌てて引っ越したもんだから、七海は引っ越し先で慣れないし、あなたがいないって泣き出すし、大変、だったのよ」
「そうなんですか?」
「七海はね、悠くんがいないって、それは、もうすごかったの。昔から、あの子って活発でお転婆だったから転勤先でも、うまくできると思っていたんだけど、情緒不安と言うか、そんな感じになってね、心配していたの」
「へ~」
「今の七海からは想像もつかないでしょ?」
「はい」
「最近は、落ち着いて昔みたいに戻ってきたら、あの事件でしょ」
「もう本当に、頭、悩まされたわよ」
「そうですね」
「でも、悠くんが、たまたま七海を見つけてくれたからよかったものの、ほんとうに悠くんには感謝しかないわ、しかも、事件のことを隠さなくていいし」
「そうですね」
「主人からも聞いたけど、ななみ、あの男に洋服をめくられていたでしょ」
「はい、すこし」
「そんなことも知っている悠くんしか、頼めないの、七海が事件のことを共有できるのは、あなただけだから、七海も悠くんのこと、すごくすきでしょ」
「はい」
「だから、あなたに七海を任せたいの、一人の女性が男に襲われたということを隠すことなく共有できるのは、悠くんだけなの、だから、こんなに悠くんのことを好きな七海を悠くんさえ、良ければもらってほしいと先走っちゃたのよね」
「いえ、おばちゃん、俺も七海ちゃんのことが好きです」
そこに七海ちゃんが着替えて降りてきた。
「2人で何を話しているの?、いま悠くんが誰かを好きって言っていたのが聞こえたんだけど」
「えっ、そんなこと言ってないわよ、ねぇ、悠くん」と七海ちゃんのお母さん
「えぇ」と俺は歯切れが悪い。
「ほんとう?」と言いながら七海ちゃんは俺の顔をジーとみている。
「ほんとうはね、悠くんと話していたのは、ななみのこと」
「あっやっぱり」
ここで母親はため息をつきながら話し始めた。
「あのね、ななみ、あなたが、あまりにも悠くんのことが好きだから、このさい、ツバをつけとこうとしたのよ」
「えっ」
「婚約の件よ、向こうのお母さんから聞いたでしょ」
「うん…」
はっきり言って、ななみ、言いにくいんだけど、以前、男に襲われたときに、あなた、胸をみられたぁ、とか触られたとか言って悩んでいたでしょ」
「うん…」七海ちゃんが下を向いた
「普通だったら、事件のことを、お付き合いするんだったら、黙っているしかないのよ」
「そうだよね…」
「でも悠くんなら、七海を助けてくれているから現場にいたのよね」
「うん…」
「悠くんは全部、みているのよ。わかる?」
「うん」
「その全部、見ている悠くんだから安心して七海を任せられるの」
「わかるでしょ、悠くんしかいないの、あなたには…」
七海ちゃんの顔が明るくなってくる。
「そうだね、私が襲われたのも、悠くん知っているし、助けてくれたんだもの…」
「七海、あなたね、襲われたことを隠して違う男性と付き合うことできないでしょ」
「うん、できない、違う男性だなんて、無理だけど」
「すべてを知っているし、七海のことが好きな人っていないでしょ」
「うん、いない」
「だったら悠くんを離さないことね、そのために婚約をしてくださいってお願いに上上がったんだから、わたし」
「お母さん、ありがとう」七海ちゃんは大粒の涙を流している。
「わたし、これでも七海の親だから、あなたの性格はよく知っているつもりよ」
「たぶん、ななみは、悠くんとケンカ別れでもしてしまうと、どうにかなっちゃうんじゃない?」
「うん、そうかも…」
「七海って、人からみたら、すごく大人びて見えるし、しっかり者のように見えるし、女性からも男性からも、もてるでしょ?」
「うん、そうかも…」
「でも本当はぜんぜん、逆じゃない!、あなたほど、悠くん、悠くんって言っている人いないし、ぜんぜん大人びていないし、子供っぽいし、一人っ子だから、すごく甘えん坊だし」
「…はい、ごめんなさい…」
「そんなあなたが悠人くん、離せる?」
「離せませんと言うか、離したくありません」
「そうでしょ?」
「今から、あなたたちは大学まで行って、色々な人と会っていくのよ、その中に悠人君が良いなって思う女性がいるかも知れないのよ」
「そんなの嫌だ」
「そうでしょ、だから、お母さんが、お願いにいったのよ」
「悠くんと、うちの七海を婚約させてくださいって」
「…そうなんだ」
「そりょあ、もう、大変な思いだったわよ」
「お母さん、ありがとう」
「幸い、向こうのお母さんも、悠くんの生活態度の変化に驚いていたから」
俺の方を見ながら言っている。
「向こうのお母さんが言っていたけど、悠くんも七海に会う前は、よくなかったでしょ?」
「はい」
「そんな2人が出会って、付き合いだして、がんばって行けるなら、私が人肌脱ごうと思ったのよ」
「おかあさん、ごめんなさい、そしてありがとう」
「悠人くん、あなたの前では七海は子供っぽいけど、これが七海だから、大人びているのは無理している証拠だし、しっかり者のように見えて、そうじゃないから、これからも七海を見てほしいんだけど…どうかしら」
「もちろん、七海ちゃんさえ良ければ」
「そう、よかった」
「七海、悠人くんを離すんじゃないわよ」
「はい、おかあさん」
「じゃ、部屋にいって勉強でもしなさい」
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