第191話 それが『普通』なんじゃないの?

 「はぁ?!付き合い始めた?!」


 「ちょっ、うるさいわ」


 俺の反応に対して、人差し指を口の前で立てて「静かにしろ」とジェスチャーを送ってくる高橋。

 そして前を歩く陽葵と朝香を見て、気付いていない事を確認すると、俺をジトリと睨んできた。


 「いや、だって…えぇ…?」


 「なんなんだよその反応は」

 

 高橋と陽葵が戻ってきた後、俺は高橋から飲み物を買いに行った時にあった出来事の詳細を聞いていた。

 結果から言うと高橋と陽葵は無事に想いを伝える事ができたらしく、付き合う事ができたらしい。あの数分でなんでそんな内容の濃い話が出てくるんだよ。


 「まぁとりあえず、おめでとうって言っておくわ」


 「おう、旭も色々ありがとな」


 「いや、俺何もしてなくね?」


 なんなら今日はサポートに来たはずなのに、初手のアトラクションでダウンして介護されてただけだぞ。

 …マジで何もしてねぇじゃん…。


 「いや、お前が背中押してくれなきゃ、今日だってこんな風に陽葵を誘ったりなんかしなかったよ」


 そう言いながら前を歩く陽葵を見る。


 「…まぁ、余計な事にならなくてよかったよ」


 なんか…やりずらいな。

 どうしたよコイツ。急にめっちゃ素直じゃん。


 「別にお前は間違った事言ってないだろ」


 「あーはいはいわかったわかったから!うるさい!うざい!」


 「いや酷くね?」


 なんか嫌だ!

 今の高橋と話してると背中がゾワゾワしてくる!


 「…まぁ、俺の話は終わりにしておくか」


 そう言って高橋は息を一つ吐くと、今度は俺を真っ直ぐに見てきた。


 「んで、お前の方は何があったんだ?」


 そう聞かれて、俺は歩く足を一瞬だけ止めてしまう。


 「…なんの事だよ」


 「お前と伊織、喧嘩でもしたのか?」


 「…まぁ、色々…大した事ないよ」


 「お前らの場合、前回が大分大きい喧嘩だったから信用ならないんだよ」


 「いや、喧嘩じゃないから」


 「じゃあ何?」


 「…いや…」


 俺が言おうか言わないから迷っていると、横から高橋が大きなため息を吐くのが聞こえた。


 「あのなぁ、よくないぞお前のそういうところ。もう少し周りを信用してもいいんじゃないのか?」


 そう言われて、さっきの朝香の言葉を思い出す。


 『…ねぇ旭。私じゃ頼りない…?』


 辛そうに俺を見て言う朝香の顔を思い出して、無意識にため息が出た。


 「…俺ってさ、やっぱりそう見える…?」


 「は?」


 「お前らを信用してない様に見える?」


 「…まぁ、旭って大体の事は一人で抱え込むからな。お前にそのつもりがないのはわかってるけど、やっぱり信用されてないのかな、とか思ったりはする」


 「…そっか」


 高橋の言葉を聞いて、さらに深いため息が俺から出た。


 「…何?どうゆう事?」


 「言われたんだよ。お前と似た様な事を朝香にさ」


 「え?」


 「もっと頼ってくれ、私は頼りない?ってさ」


 「あー…」


 「でもさ、そんな頼ってばっかりの男ってどうなのよ?彼氏的にもさ。やっぱりそういうのって、見せないのが『普通』なんじゃないの?」


 俺は縋る様な気持ちで高橋に思った事を打ち明ける。

 それを受けた高橋の顔は、いつものノリのいい高橋の顔じゃなく、真剣な顔だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る