第188話 不要なテンプレ
「別に言ってくれれば俺が買ってくるのに」
「いいの。それに、あの二人にはもうちょっとカップルっぽい事してほしいからね。だからあたしがいるとダメなの」
「なんか似た様な事が最近あったような…」
旭がジェットコースターでダウンしてしまったため、俺と陽葵は飲み物を買いに出向いていた。
俺一人でもよかったのだが、陽葵もあの二人に思うところがあるらしく、態々二人きりの状態にするために俺に着いて来た。
「ん?似た様な事って?」
「俺が旭に、もうちょっと恋人っぽい事してもいいんじゃないかって言ったんだよ」
「へー、流歌君も似た様な事考えてたんだ」
「ま、まぁ…」
旭にはなんだかんだ言って世話になってるからな。友人として幸せになって欲しいと思っているのは本当の事だ。
「せっかく結ばれたんだ。幸せになって欲しい、とか楽しんで欲しいとか思うのは変な事じゃないだろ?」
「…やっぱり流歌君は優しいね」
そう言って陽葵は小さく笑った。
「そんな事ねぇよ…」
目の前で褒められ、嬉しさ半分、恥ずかしさ半分の俺はぶっきらぼうに、否定する事しか出来なかった。
「あっ!ドリンクの屋台があるよ!」
旭たちから離れて数分。
陽葵が見つけたのは遊園地特有の、ちょっと高めの飲み物の屋台だった。
水は…無さそうだな。
辺りを見回すと、反対方向に自販機が設置してあるのが見えた。
「んじゃ、俺はあっちで旭の水買ってくるから、陽葵も飲み物買ったら屋台の近くで待っててくれ」
「うん、わかった」
陽葵の返事を確認して、俺と陽葵は一度別れる。
こういう時って、漫画とかだと陽葵がナンパされる流れだよな。
そんな事を考えながら歩いていると、自販機の前まで来ていた。
「まぁ、ありえないだろうけど」
そう小さく呟きながら小銭を入れて、水を購入する。
ついでに俺のお茶も買っておく。
取り出し口から二本のボトルを取り出し、さっきのドリンク屋へと足を向ける。
「…え、マジで言ってんの…?」
ドリンク屋の前、遠目に見える両手にカップを持った陽葵の姿。
そこに群がる二人の男。
「冗談だと言ってくれ…」
実際に目の前で起こると、中々頭が働かないものだ。
これ、どう対処するべきなんだ?
「俺の彼女なんで」とか言ってみる?
いや、めちゃくちゃ恥ずかしいし、陽葵にも失礼じゃないか?後で陽葵に怒られるだろう。
そもそも、本当にナンパなのだろうか?
アンケート調査とかそういうのじゃないのか?
「…」
陽葵の顔を見る。
けど、これがもし、ナンパだったとしたら…。
そう思うと、なんだか無性にムカムカして来た。
こうなったらもう、どうとでもなれ、だ。
俺は陽葵のいる方へと駆け出し、男二人と陽葵の間に割り込む。
「あの、俺の彼女に何か用ですか?」
俺が割り込んだことにより、男二人は面を食らう。
これ以上近づかさせないように陽葵の前に腕を持って行き、男の方には若干の睨みを効かせる。
「…へっ?!る、流歌君?!」
「大事にするつもりはないんで、お引き取り願えませんかね」
素っ頓狂な声を上げる陽葵を今は無視して、男たちに向き合う。
体格からして大人、大学生くらいだろうか。
俺よりも高い身長の二人が俺を見下ろしている。
あぁ…これで殴りかかって来たりしたらどうしようか…。
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