第186話 見せたくなかった

 「うえぇぇぇ…ぎもぢわりぃぃ…」


 「旭、あまりこういうの得意じゃないもんね…」


 高橋の提案により、最初からジェットコースターという大分ハードなアトラクションに乗った俺たち四人。

 しかし、俺はジェットコースターみたいな浮遊感が凄い乗り物はあまり得意ではないため、開始早々にグロッキー状態になっていた。


 「苦手なのに、なんで乗ったんだよ…」


 「ばかやろー…初っ端から見てるだけ、とか来た意味ないだろ…」


 「そのせいで初っ端から死にかけてるけどな」


 呆れ顔でベンチに横になっている俺を見る高橋。

 いや、いけると思ったんだよ。なんか知らないけど謎の自信が腹の底から溢れ出て来たんだよ。


 「…まぁいいや。取り敢えず水買ってくるから待ってろ」


 「あ、あたしも行くよ。ついでにみんなの飲み物買ってくるからさ」


 そう言って高橋と陽葵は売店の方へと向かって行った。

 喧騒の中、俺と朝香がベンチに残される。

 一見、彼女と二人きりで遊園地、という最高のシチュエーションに見えなくもないが、俺の気分は最悪。気持ち悪いしクラクラするし、その上遊園地の客の賑やかな声が頭にガンガン響いてくる。

 情けねぇ…。

 ジェットコースターに一回乗ったくらいでこんな事になるなんてダサすぎる。

 あぁ〜最悪だぁ〜…。

 体調が悪くなると心が弱くなると聞くが、まさにこういう事なんだろう、と現実逃避気味に実感していると、不意に背中…というか、肩のあたりに温かみを感じた。


 「旭、大丈夫?」


 それは、朝香の手の温もりだった。

 おそらく、背中を摩ってくれようとしているのだろう。

 …はぁ…マジでダサい…。


 「…ごめんな…」


 「え…?」


 気がついたら、俺の口からは謝罪の言葉が漏れ出ていた。


 「…わざわざ休日に来たってのに、俺のせいで時間無駄にしちゃってるから…」


 何言ってんだ俺。

 そういうのは思ってても口に出しちゃいけないんだよ。

 みっともない。ダサい。

 そうわかっていても、漏れ出た弱音は止まる事を知らない。


 「昔から後先考えずに行動して、朝香に迷惑かけて…せっかく恋人になれたのに変わらないままで…ほんっと…ごめん…」


 「旭…」


 消えてなくなりたい。

 こんな事を言うつもりじゃなかった。

 弱いところを見せたくなかった。

 …朝香にだけは、見せるつもりがなかったのに。


 「そんな事ないよ…って言っても、旭は納得しないよね」


 「…」


 「…私はホッとしてるよ」


 「……………え?」


 ホッとしてる…?

 俺は朝香の一言で、思考を停止させる事しかできなかった。

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