第185話 緊急要請高橋
遊園地というのは、いつの歳になってもワクワクするものだ。
子供から大人まで楽しめる数々のアトラクション、腹を満たすための食事処、気になるあの子と距離を詰められるかもしれない、盛り沢山のイベント。
そんな夢のある遊園地に、なぜか俺がいた。
「…で、なんで俺がいるんだよ…」
土曜日の午前十一時。
折角の休日を潰された恨みから、不機嫌さを隠そうとせずに、ジトリと目の前の高橋を睨む。
そんな俺を物ともせず、高橋は遊園地のパンフレットを読みながら答える。
「それはお前…関わる口実が欲しかったからに決まってるだろ」
「いや、普通に二人で来たらよかったじゃん」
「お前なぁ…女子に『二人で遊園地行かない?』とか、もう好きって言ってるようなもんじゃん?!」
「いや、好きだから関わろうとしてるんじゃん」
はぁ、と息を吐いて、俺は前方の二人を見る。
陽葵は遊園地をバックに自撮りをし、朝香はそれを呆れながらも、楽しそうに付き合ってやっていた。
今回、なぜ俺たちがここに来ているかと言うと、前日に高橋から『明日、遊園地行こうぜ!』とのメッセージがあったからだ。
もちろん、最初は『やだ』の一言で一蹴してやったが、高橋がしつこく、『伊織も連れてきていいから!なんなら代金も半分出すから!』と、引いてはくれなさそうだったので、仕方なく了承した。全部出してくれないのかよ…。
取り敢えず朝香に話を通し、朝香が断ったら俺も断ろう、とか思っていたが、朝香は意外にも乗り気で快く了承したため、現在に至る。
「ったく…このチキンが」
「いや、そんな言わなくてもよくない?…別にいいだろ。お前ら付き合ってるのに、どうせほとんど前と変わってないんだろ?」
「うるせぇ、ちゃんと名前で呼んでるし、放課後デートだってしたわ」
「いや、初めて会った時と変わってねぇじゃん」
と、呆れ顔で高橋は言う。
そんな事言っても、俺と朝香も、付き合ったからと言って変化を求めているわけではない。
「お前ら、もうちょっと踏み込んでもいいと思うんだけど」
「変態」
「なんで?」
まぁ確かに、高橋が言っている事にも一理ある。
俺は陽葵と戯れている朝香に目をやる。
俺は変化に拘りはないけど、朝香は違うんだろうか…?
言葉や態度に示さないだけで、本当は変化を求めているのだろうか…?
もし、そう思ってくれているのなら、素直に俺は嬉しい。
けど、もし違ったら…?踏み込んで、関係が崩れたら…?
「…い…おーい」
「っ?!」
「どした?具合悪いのか?」
不思議そうに俺の顔を覗き込んでくる高橋。
どうやら考え込み過ぎたようだ。
俺は「なんでもない」と高橋に言ってから、大きく息を吐く。
「…わかったよ。サポートするから」
「さんきゅ、さすが親友」
「親友やめてぇ…」
「無理です」
俺の冗談を気にする事なく、即座に対応できる高橋は、さすが親友と言ったところか、俺の扱いに大分慣れてきているようだった。
そんな高橋を無視して、俺はもう一度朝香を見る。
陽葵と一緒に過ごす姿は、やっぱり楽しそうだった。
…まぁ、あいつが楽しそうならいいか…。
「…んで、何かプランとかあるの?」
「ん?あぁ、今考え中」
「マジかよお前…」
無計画の高橋に、俺は呆れの視線を送る。
…まぁ、取り敢えず今日はサポートに専念するか…。
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