第182話 よく考える

 「そりゃ辛いに決まってんじゃん」


 「…」


 言いにくそうに、気まずそうにする陽葵に向かって、あっけらかんと言ってやった。

 そんな陽葵に構う事なく、俺は言葉を続ける。


 「自分の気持ちを伝える、一世一代の大イベントだもん。『拒否』って形で答えが返ってきたら、そりゃ辛いよ」


 「…」


 「でもさ、伝えないで終わるのもさ、なんか嫌じゃない?」


 「っ…」


 俺の言葉に、陽葵は苦虫を噛み潰したような表情をする。


 「…まぁでも、人によるんだろうけどさ。嫌じゃないんなら別に焦らず待っててもいいんじゃない?告白するのは男の役目、みたいなところあるし」


 まぁ、俺からの告白は見事に失敗してるんだけどね。

 自嘲気味に思いながら、おかずを一つ口に運ぶ。

 それをゆっくりと噛んで、飲み込んだあたりで、陽葵はゆっくりと口を開いた。


 「…待つだけなのは…だめ…」


 「ほーん、なんで?」


 「流歌君、女子の間で結構人気あるから…」


 「えっ、マジで?」


 なんかそれ聞いたらムカついてきたな。


 「だから、待ってるだけだときっと、先を越されちゃう…それに…」


 そう陽葵は続けて、ギュッと箸を掴む手に力が入るのがわかった。


 「女だからって、待つだけなんてのは嫌!」


 「…へぇ」


 ちょっとまって俺の姉ちゃんかっこよすぎない?


 「でも、やっぱり怖い…拒否されて、もう普通じゃなくなっちゃうのが怖い…」


 「陽葵…」


 うーん…これはどうしたものか…。

 高橋も高橋で、今は奥手になってる状態なんだよなぁ…。

 このままだときっと、陽葵も高橋も不幸で終わってしまう。

 けど俺が「高橋は陽葵の事好きだぞ」とか言うのは違うし…。

 何か原動力になりそうな事を言ってやりたいけど、俺にそんな言葉のセンスも語彙もない。


 「…なんていうかさ、無理はしなくて良いんだけど、お前は一応、俺の大切な家族だからさ…後悔はして欲しくない」


 「…後悔?」


 「うん。あの時あーしてれば良かった〜とか、やってれば今頃は…みたいな?」


 「…」


 「…ま、まぁ、決めるのは陽葵だから、ゆっくり考えなよ。結局、最終的には陽葵がどうしたいか、だと思うからさ」


 「…あたしが…どうしたいか…?」


 「うん」


 「…」


 陽葵は、一度ゆっくりと瞬きをした後、止めていた食事を再開した。

 その後、陽葵は一言も発さなかった。

 カチャン、と箸を置く音が正面から聞こえたかと思うと、「ごちそうさま」と小さく呟き、そそくさと食器を片付けていた。

 そしてソファーの上でクッションを抱きしめながら体を丸めてしまった。

 …余計な事言ったかな…。

 ちょっとだけ自分の行いを後悔しながらも、俺もご飯を食べ終わったため食器を片付ける。


 「旭」


 食器に水を溜めていると、不意に陽葵の声が聞こえてきた。

 振り返ると、変わらず丸まったままだが、視線だけをこちらによこしていた。


 「…もうちょっと、考えてみる」


 そう言ってすぐに目を逸らした。


 「…そっか」


 「…うん」


 陰ながら、この姉を応援してやろう、と強く思った瞬間だった。

 俺は冷蔵庫から麦茶のボトルを取り出し、二つのコップを用意した。

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