第183話 不幸になってほしくないから
「俺って男として見られてないのかな…」
「どうした急に」
昼休み。他のクラスになった高橋との昼飯は、もはや恒例行事と化していた。
そしていつも通り、俺はパンを齧ろうとしたところで、高橋が急に自信がなさそうに呟いた。
「いや、昨日アイス食べに行ったじゃん?」
「おん」
「あれ、陽葵に誘われたから行ったんだけどさ」
「え?そうなの?」
「じゃなきゃ行かないわ」
それ初耳なんだけど。
まぁ、陽葵は陽葵で頑張ろうとはしてたって事か。
「それで、意中の女の子から誘われて、何が不満なわけ?」
「いや、不満ってわけじゃないんだよ」
「じゃあなんなんだよ」
そう俺が言うと、高橋は言いにくそうに、ゆっくりと口を開いた。
「いや、なんというか…プリン味のアイスにしか目が行ってなかったような…」
「………あ、あ〜…」
「誘われた時も、目がガチだった」
「う、う〜ん…」
なるほど。あの時の気まずそうな顔はそういう事だったのか。
あいつ、プリン好きだからなぁ…。
冷蔵庫のプリンを勝手に食べると殺しに掛かってくるからな…。
「単純に近くにいたから誘ってくれただけなのかなってね」
そう言って高橋は自嘲気味に笑った。
なんか、面倒臭い感じにすれ違ってるんだよなぁ…。
まぁでも、陽葵のためにちょっとだけフォローしときますか。
「そんなわけないだろ」
「何が?」
「誰でもいいってわけじゃないって事。陽葵はお前だから誘ったんだよ」
「…根拠は?」
「あいつもあいつでしっかり線は引くタイプだからな。どうでもいいやつにはまず関わろうとはしないよ」
「…そんなもんかね」
「あいつの弟が言うんだから信用しろ」
「マジかぁ…」
「てめこの野郎何が不満なんだよ」
もうやめた!もう怒ったもんね!絶対助言なんかしてやらないんだから!
「そもそもさ、陽葵って好きな人いるのか?」
「えっ、さ、さぁ」
「なんでビクビクしてるんだよ」
お前だよ、なんて言えるわけないだろ。
「陽葵はモテるからなぁ…」
「ちょっと待て。それも初耳なんだが」
あいつモテるのか…。
なんか姉がモテるって聞くと変な気分だな…。
「実際そうだろ。家事できるし元気いいし、何気に気遣いもできるし、あとかわいいし」
「お、おう、そうだな」
なんて反応すればいいんだよこれ。
「そこまで好きなら、さっさと告って付き合えばいいじゃん」
「できるならもうとっくにやってるって」
「ほーん、フラれるのが怖いわけ?」
「そうだよ悪いか?」
開き直るんかい。
「別に悪いとは言わねぇよ。フラれるのは誰だって嫌だからな」
拒否される事は誰だって怖いはずだ。
だが。
「けど、このまま何もしないで待ってみろ。お前、絶対後悔するぞ」
「…」
陽葵は色々考えてるんだぞ。お前はその間、脳死で生活するだけでいいのか?
「葵さんの事があるから無理にとは言わないけど、お前はもうちょい素直になってもいいと思う」
「…」
「中途半端に距離取るから、欲しいもんも手に入らないんだろ」
「なっ!お前なぁ…!」
明らかに機嫌が悪くなっていく高橋を無視して、俺は続ける。
「だから葵さんとも付き合えなかった」
「ちょっと黙れよ」
高橋は俺を睨みつけ、普段の声からは考えられないほど低い声でそう言ってきた。
うーわ怖っ!お前そんな声出せるのかよ。
まぁでも、やめないけどね。
「気付けよいい加減」
「何にだよ!」
「お前が今やってる事、葵さんの時と同じだからな」
「っ…!」
「中途半端に距離取って、受け身で、自分から近寄ろうとはしない。聞くけどさ、もしこの間に陽葵が誰かと付き合ってさ、それを知った時にお前は納得できんの?」
「…」
「一度好きな人と付き合うのを諦めて、その人に別の男が近づいていく様を見てた経験のある俺が教えてやるよ」
自分の事を棚に上げて、高橋と向き合う。
まったく…一回拒絶された俺が何言ってんだか、って感じだよ。
てか、こいつも一回フラれてるんだよな。そんなやつに何言ってんだよホントに。
それでも俺は、こいつには…あとちょっと手を伸ばせば手に入るようなこいつらに、不幸になってほしくはない。
「見てるだけってのは…地獄だぞ」
本当にそう思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます