第181話 陽は揺れる

 「ふんふ〜ん♪」


 「…」


 朝香と別れた後、家に帰っても陽葵はいなかったが、数分遅れてきただけで特に変わった事はなかった。

 そして今、台所で鼻歌を歌いながら今日の晩御飯を作っている。

 側から見れば、ただ上機嫌で料理をしているだけだが、俺には無理に何かを隠そうとしているようにしか見えなかった。


 「はいお待たせー!お皿持っていってー!」


 「はいよー」


 そう言われて、俺は陽葵の用意した皿と箸を持ち、テーブルの上に持っていく。

 ついでに味噌汁も用意してそれもテーブルまで運ぶ。


 「というか旭さー。見てるだけなら作るの手伝ってくれてもいいんだよ?」


 「バカかお前。煮込みラーメンしか作れない俺に何を求めてんだ。ふざけんな」


 「なんであたしが怒られてるの…」


 納得がいかない、といった表情で今夜のおかずをテーブルに並べる陽葵。

 それが終わるのを見届けて俺が席に着くと、それと同時に陽葵も対面の席に着く。


 「「いただきます」」


 食事前の挨拶をし、箸を手に取り、大皿から小皿に適当に取って一口食べる。


 「うめ」


 「あたりまえじゃん」


 「すげー自信」


 俺の返しに反応する事なく、陽葵は料理を口に運び、飲み込む。

 すると、なぜか陽葵は次に手をつける事なく、じっと料理を見たまま固まってしまった。


 「陽葵?」


 「…」


 「…まな板」


 「…」


 なんと珍しい事だろうか。陽葵に言ったら絶対に怒るフレーズトップスリーに君臨するセリフが聞き流されてしまった。いやまぁ、聞き流してくれてよかったんだけどね。聞かれてたら俺が死んでたかもしれないし。

 とりあえずそんな事は置いておいて、このままぼーっとさせるのもよろしくないため、俺は箸を置いて、少し強めに自分の手を叩く。


 「っ!?」


 パンっという大きな音と共に、陽葵の肩がビクッと反応をする。


 「な、なに?!」


 「いや、ずっとぼーっとしてたからさ」


 「あ、あ〜、なるほど〜…」


 そう言って曖昧な反応と共に俺から目を逸らす陽葵。

 しかし、これで陽葵が何かを抱えている事はなんとなくわかった。

 だったら後は簡単だ。聞けばいい。


 「んで、なんかあったの?」


 「ないよ」


 「即答かよ…あのな、さっきまでのお前の反応じゃ無理があるだろ」


 「…別に大した事じゃないって」


 「ふーん、そっか。んじゃいいや」


 「…」


 俺の言葉を最後に、陽葵と俺は食事を再開する。

 一分、二分、三分、と無言の時間が続き、今日はそっとしておこうか、そう思った時だった。


 「…旭」


 弱々しく陽葵が呟いた。


 「んー?」


 「その…告白ってさ…」


 「うん」


 「…振られたら…辛い…?」


 そう言う陽葵の瞳は不安からか、揺れていた。

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