第176話 前みたいに
「アイスじゃん」
「え?アイスだよ?」
あれから少し経った後、何を食べに行くのか教えてくれなかった俺は大人しく伊織の後ろをついていた。そして、たどり着いたのはアイスクリーム屋だった。
「スイーツ…なのか…?」
「スイーツ…でしょ…?」
「なんでお前が疑問系なんだよ」
スイーツって言うくらいだから、もっとこう…ケーキとかそういうのを想像していたんだが。
「んで、何が限定なの?」
「『カラメルプリン味』が期間限定なんだって」
「陽葵が好きそうだな」
俺がそう言うと、なぜか伊織はちょっとだけむくれた顔をして俺を見てくる。
「すぐ他の女の子の話する…」
「ちょっと待て言い方ぁ!」
まるで俺が女の子で遊んでいるような言い方はやめていただきたい。俺はそんな優柔不断な男ではない!
…とはいえ、彼女と過ごしている、というのに他の女の子の話をするのは配慮に欠けていたか。次から気をつけよう。
「てか、伊織ってそういうの好きだったっけ?」
「…」
とりあえず話題を変えるために質問をしてみたが、なぜかまた、伊織は不機嫌そうに俺を見ていた。いやなんでよ。
「えっと…どした?」
「……よ……た…」
「え?」
「呼び方!なんでずっと『伊織』のままなの!」
「あ…あー…」
周りに迷惑を掛けないような声量でしっかりと怒っているのが伝わってくる。
そういえばずっと苗字呼びだったな…。
「いや、最近ずっと苗字呼びだったから忘れてたというか…」
「…私、旭が名前で呼んでくれなくなった時から、ずっと寂しかったんだよ…」
「それは…ごめん…」
「ううん、私が悪かったからしょうがないよ」
「いや…」
せっかくの放課後イベントだというのに、空気が完全にお通夜モードである。
「だ、だから…!名前で呼んでよ!」
そんな空気に耐えかねたのか、半ば強引に伊織は話を進めた。
「えっと…あ、朝…香…?」
「〜〜!うんっ!旭!」
「っ!」
名前で呼ばれたのがよほど嬉しかったようで、文字通り満面の笑みで俺の名前を呼ぶ伊織。くっそかわいいなおい。
…にしても、久しぶりに名前で呼んだな。今更だけどちょっと恥ずいな…。
「…?なんで赤くなってるの?」
「いやなってないから。それより食べるんだろ?早く並ぶぞ」
「あっ!ちょっと待ってよ!」
答えを誤魔化すように、アイスクリーム屋の列に向かう俺の足は、普段よりも早かった。
「ねぇ旭」
「ん?」
「楽しみだね!」
「…そうだな」
心の底から楽しそうにする朝香を見て、俺も自然に朝香と歩幅を合わせるのだった。
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