第177話 あおいはる

 「こちらが期間限定アイスでございます」

 

 「誰に言ってるの?」


 無事にアイスを手に入れることができた俺と朝香は、近場のベンチに座って休憩していた。


 「にしても意外だな」


 「何が?」


 ぺろっとアイスを一度舐めてから朝香が聞いてくる。


 「いや、朝香ってあんまりこういう遊びに誘うような事、あんまりしないイメージだったからさ」


 「…私だって遊びに誘う事あるよ?」


 「だよな。悪い悪い」


 そう言って俺もアイスを一口食べる。

 すげぇ、思ってたよりもプリンだ。


 「…でも…」


 「んぇ?」


 朝香が言いにくそうにしながらアイスをじっと見つめる。


 「その…旭といる口実が欲しかったっていうのはある…かも…」


 「ふぁ?!」


 「な、何よ!」


 恥ずかしさを紛らわすためか、空いた手で握り拳を作り、小さくブンブンと上下させる朝香。

 …かわいすぎない?今なら文字通り昇天できるかもしれない…。なるほど、これが天使か…。


 「そのために調べてくれたの?」


 「ううん、これは陽葵が教えてくれたの」


 「やつか…」


 あいつプリン好きだもんなぁ…。冷蔵庫のプリンを勝手に食べたらシャーペンが飛んでくるもんな。マジでやめてほしい。男子高校生のお腹事情舐めんな。


 「あれ?陽葵も来るんじゃないか?」


 「え…わかんないけど…」


 その情報を知っている陽葵が来ないわけがないのだが…アイスには興味がない?いや、そんなはずない。


 「まぁ、どうでもいいか」


 「よくはないでしょ…」


 朝香に呆れられながら、俺はアイスを食べ進める。それに倣って朝香も少しずつアイスを食べていく。

 その間、特に会話らしい会話はなかったが、気まずいわけもなく、寧ろ心地の良い沈黙だった。


 「ごちそうさまー」


 「え…?ちょっと待って。私まだ残ってる」


 「いや、ゆっくりでいいよ」


 食べ終わった俺を見て、若干食べる速度を上げる朝香。

 そんな姿もかわいく見えてしまうのが不思議だ。

 朝香が食べ終わるまで、ゆっくりしながら周囲を見渡す。

 放課後だからか、学生の姿もちらほらと見えて、まさに青春、という感じだった。

 そんな青い春の空気の中、見慣れた後ろ姿がふと目に入ってきた。


 「ん?あれ高橋じゃん」


 「へ…?」


 なんでここにいるんだ?

 ははーん…さては興味ないフリしてただけだなぁ?


 「おーい、たかは…がっ?!」


 「ちょ、ちょっと!」


 高橋を呼ぶために開いた俺の大きな口は、朝香の小さな手によって塞がれた。

 いや、なんでよ。


 「いうぁ、あにやっふぇんあお?!」


 「しーっ!しーっ!」


 俺の口を押さえながら、もう片方の手で人差し指を立て、「静かにしろ」のサインを必死に送ってくる朝香。

 それに応じて一度大人しくすると、俺が静かになったのを確認してからゆっくりと高橋の前を指差した。


 「お、おぉ…」


 朝香が差した方を見ると、そこには高橋以外の見慣れた人物がいた。

 陽葵だ。

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