第173話 友人の恋

 「ほーん…で、めでたく付き合ったわけか」


 「まぁ、そういう事になる」


 昼休み。クラスで楽しそうに話をしていた高橋を見つけて、「邪魔しちゃ悪いし、報告は後ででいいかな」なんて事は思わなかった。普通に呼んで普通に着いてきてくれたので俺は悪くないはずだ。

 まぁ、そんなこんなで呼び出した高橋に、伊織と付き合い始めた事を報告しながら、俺たちは校舎外のベンチでコッペパンを貪っていた。

 そう、これは平和な日常の一部分に過ぎないのだ。


 「旭…」


 「ん?」


 「爆発しちまえ」


 「なんだてめ」


 「爆発しろ」


 「なぜ言い直した」


 平和とはかけ離れたセリフが飛んできたが、そこに悪意なんてものは微塵も感じない。なんだかんだ言って一年以上もこんな関係をやっているからか、本気か本気じゃないかぐらいはわかる。つまり、いつも通りって事だ。


 「まぁ、俺の話は終わりだ。次はお前だな」


 「は?なんの話だよ?」


 「いや、陽葵よ陽葵」


 「ほっとけ」


 そう言って目線を逸らしてコッペパンを齧る高橋。

 なんだい?その反応は?もっと聞いてくれってか?それじゃあ聞いちゃおうかな?なんて、あまりしつこいと機嫌を損ねる可能性があるためやめておく。俺だって喧嘩がしたいわけじゃない。だからここは潔く引いておくのが吉なはず。


 「実際気になるんだよ。一応友人として応援したい気持ちがない事もない事もない」


 「いやどっちだよ」


 しかし、気になるものは気になる。モヤモヤ内に溜めておくくらいなら出してしまえ、というのが俺のモットーだから俺は悪くない。悪いのは俺の性格だ。

 …あれ?自分で自分をディスってね?


 「はぁ…あっちはからかって遊んでるだけだって。意識するだけ無駄だよ」


 そう言って高橋は、コッペパンを口に押し込み、牛乳で流し込んだ。


 「ほんとにそう思う?」


 「思うね。しず姉の時もこんな感じだったからな。さすがに学ぶわ」


 「はぇ…」


 なんというか…よくない感じになってるなぁ…。

 陽葵の気持ちを俺は知っているから「違う」と言えるが、高橋からすればそういう風に見えているわけで、俺が「違う」と言っても「なんで?」と聞き返されるのがオチだ。

 ならば理由を言ってしまえばいいじゃないか、というわけにもいかない。それは陽葵の気持ちを蔑ろにする事になる。


 「もうちょい自信持ってもいいと思うけどなぁ…」


 だから、俺から言える事は何もない。

 この問題に俺がどうこう言っても話が拗れるだけで、誰も得しない。それならば、いっそ黙って見守る方がいいだろう。


 「そんな好かれるほどいいやつじゃないから。俺」


 「…なぁ、ちょっといいか?」


 「なんだよ?」


 高橋が陽葵に好かれていないと思っている事はわかった。けど、それだけで終わらせていい話ではない。


 「俺がいうのもアレなんだけど、結局お前は陽葵の事、好きなの?」


 「…」


 実際、ノリで俺が言い始めた事で、なんとなくここまで話してきたが、「陽葵が好き」だと高橋の口からは一回も出ていない。

 まぁ、言わなくてもなんとなくわかってはいるが、これは気持ちの問題だからやはり、本人の口から言わせるべきだろう。


 「いや…まぁ…」


 「あん?」


 「…………好きだけど…?」


 照れ臭そうに頬を掻きながら高橋は言った。

 ほらね?


 「いいじゃん、それで」


 「は?何が?」


 俺の言葉に高橋は、理解ができない、というような顔で見てくる。


 「好きなら好きでいいだろって言ってんの。だからそういう風に自分を卑下するのはやめろ」


 「…旭…」


 数秒の間、何か言いたげな表情をする高橋だったが、その表情はすぐに消えてニヤリとした表情を浮かべる。


 「お前、そういうセリフ死ぬほど似合わないな」


 「上等だテメェ。戦争か?おん?」


 やはり俺とこいつの間に平和なんてなかったんだ。

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