第169話 おさななじみ

 期限まで残り一日。今日もいつも通り授業を受け、いつも通りの放課後となったが、一つだけいつも通りではない事が起ころうとしていた。


 「二人きりで帰りたいんだけど大丈夫そ?」


 「…へ?」


 俺は帰りのホームルームが終わった瞬間にD組の教室に直行して、ある人物の元に来ていた。

 そして、俺の言葉で教室中が騒ついた。

 …うん、言い方悪かったね。


 「…なんか、旭から誘ってくるのって珍しいね」


 「そうか?」


 「うん。だっていつも気づいたら学校にいないんだもん」


 「俺は幽霊か何かか」


 伊織朝香。俺の幼馴染で初恋の人。

 陽葵を除けば一番関わりが深い人になると思う。

 そんな伊織を誘って何を企んでいるのかというと…まぁ、単純に話がしたいだけなんだよな。

 そんな事を考えていると、伊織は帰りの準備が終わったのか、鞄を持って席を立った。


 「それじゃあ、行こっか?」


 「…誘っておいてなんだけど、無理してない?」


 「そんな事ないよ?だって旭のお誘いだよ?私にとっては嬉しい事なんだよ?」


 「お、おう」


 去年の文化祭が終わったあたりから、伊織はこんな風に俺に対してめちゃくちゃ好意的になった。

 俺にとっては嬉しい事であり、望んでいた事でもある。

 でも、そんな伊織に告白されても「OK」を出さずに保留のままにしている。

 側から見れば最低な行動だ。女の子の告白を断るでもなく、保留にしているのだから。伊織は表面上では「大丈夫」だと言っているが、心中は気が気でないはずだ。

 だから終わらせよう。最低な行動を、この有耶無耶な関係を。



 …




 見慣れた道を二人並んで歩いていく。この光景も、雰囲気も、俺の中では当たり前のものになっていた。


 「それでね、陽葵がまた変な事言い出しちゃって…」


 「しょうがないだろ?デフォルトが変なんだから」


 「もう…そんな事言わないの」


 現在、俺と伊織は特に深い話をするでもなく、ただただ談笑をしている。

 大事な話をするんじゃないのか?と思ったそこのあなた。お黙りなさい。なんて話始めればいいのかわからんのじゃ。


 「…それで、話があるんじゃないの?」


 「へっ?!」


 「違うの?」


 「いや、違わないけど…よくわかったな」


 「だって旭だし?」


 「理由になってない気がする…」


 なんというか…俺ってとことんダメなやつだと思う…。

 自分の用事すら自分で言い出せないとか救いようが無さすぎる…。


 「あーっと…」


 けど、今はそんな事を気にしている場合じゃない。

 せっかく話す機会を与えてくれたんだ。いつまでも俺が言い出さないのは間違っている。


 「…その、告白の件で話がある」


 「っ…」


 言った瞬間に、伊織の穏やかだった表情が強張り、気温も心なしか低くなったように感じた。

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