第168話 あなたはどっち?
「…それで、この紙切れは特に悪意のあるものではなかった、と」
「まぁ、そんなとこだなぁ」
二枚の紙をヒラヒラとさせる高橋を横目に、俺はそう答えた。
後藤の紙切れ事件が解決した翌日。
昼休みになり、校舎脇のベンチに高橋と二人座り、昨日の事を報告した。
昨日分かった事は一つ。後藤、あいつはダメだ。異論は認めん。
「なんか無性に腹立ってきた」
「なんでだよ」
「高橋…それくらい察してくれよぉ…長い付き合いだろ?」
「俺は未だにお前がわからんのよ」
「は?処しますよ?」
「なんでだよ」
くだらない事を話して時間を潰しているが、そんな暇がない事を思い出してほしい。俺には時間がない事を。
楓に三日以内に答えを出す、と言った日から一日が経過。残り二日となった。つまり、明後日までには答えを出さなければならないのだ。それに…。
『…それ、本当に『友達だから』ってだけなのかな?』
後藤にそんな事を言われてから、心のモヤモヤが無くならなくなっていた。
「…俺、昨日を無駄に過ごした気がするわ…」
「今更だろ。お前はいつでも無駄にしてるだろ」
「おいてめ」
最後の頼みの綱、高橋は相変わらず俺の扱いがなっていない。そんなんだから後藤に標的にされるんだよバーカ…と思ってはいるが、頼みの綱にそんな事を言ってしまったら機嫌を損ねてしまうので、ここは大人しく、そしていつも通り意見を聞いてみる事にする。
「それはそうと高橋君や。『好き』って事を自覚する方法とかないかね?」
「え、何いきなり…キモい…」
「よし戦争かゴラァ?!」
こっちは一刻一秒を争ってんだぞ!
「ちょ、まじめにまじめにさ」
「いやだってさぁ…お前がそういう青春っぽい事言うの似合わねぇんだもん」
「てめぇ…葵さんにフラれたからって八つ当たりしてんじゃねぇぞ」
「おし、上等だおい。喧嘩売ってるんだな。買ってやるよ!」
「おうやってみろや!もし手ぇ出したらテメェの全部のシャーペンの芯、折って入れて詰まらせてやんよ!」
「やる事陰湿すぎんだろ…」
人の闘い方にケチをつける高橋。
相手を嫌な気持ちにさせる、これが俺の闘い方だ。文句は一切受け付けておりません。
「…で、あれか?前に言ってた『気になる人が二人いる』って話か?」
「あ、あぁ、覚えてたんだな」
「まぁな」
「キモッ」
「んじゃ、お疲れ様でした!」
「申し訳ありません高橋様!どうかこの惨めな私めにご助言を!」
席を立って校舎の中に入って行こうとする高橋をなんとか引き留める。
まったく…こいつと話してると本題に入るまでが長いから方向修正が大変なんだよな…。
え?お前のせいだって?…んなわけないだろ?
「自覚って言ったって、時間かけるしかないだろ?」
「いや、明後日までには答えを出さなきゃならなくなりまして…」
「は?なんで?」
「…まぁ、いろいろありまして…」
「…………お疲れ様でした!」
「たかはしぃぃぃぃぃぃ!!」
「いや無理だから!」
こいつ…!親友が目の前で危機的状況に陥っていると言うのに見て見ぬふりをしようと言うのか?!
「頼むって!マジで!」
「んな事言われてもなぁ…あ…」
「おっ?」
何か思いついたのか、変な声を出す高橋。
期待してもいいのか…?高橋…?
「…例えばだけど、どっちも絶対に死ぬ状況で、どっちかなら助けられるってなった時に、お前ならどっちを助ける?」
「え…ちょっとエグいて」
「一番わかりやすいと思うけどな」
確かに、「助けたい」と思う方が好きな人だという理屈はわかる。
簡単に言うと、この問題は二人を天秤にかけているという事だ。
どっちか死ぬのかぁ…。
「ぬおぉぉぉぉぉ!!!!」
「いや、どうしたよ」
「…どっちも助ける、じゃだめ?」
「だめ」
いや、無理やて。
この問題、言い換えれば『どちらかを殺せ』って事だろ?いや無理よ。
「いや、俺が死ぬから二人とも助かってよ」
「いや、だからそれじゃあ意味ないって…」
「お前!あいつらをそんな簡単に殺せるのか?!」
「んな事言ってねぇよ!『例えば』の話だって言ってんだろ!?」
選べるわけないだろそんな選択肢!
「…はぁ…んじゃもっと簡単に花とかでいいや」
「何が?」
「綺麗な花を一輪見つけたとするだろ?誰にあげたい?」
「花か…」
とりあえず状況を想像してみる。
手に持っているのは、淡い青い花。男の俺でも綺麗だと思うような花を想像して、誰にあげるのかを考える。
…喜んでくれるだろうか…。
「…!」
そうして頭に浮かんだのは一人の少女の笑った顔だった。
「…なぁ旭。やっぱり無理に決めるのは良くない気がするんだが…」
「いや、多分決まった」
「うそん」
パッと最初に浮かんだのは彼女の顔だった。そこからは簡単だった。笑ってほしい。いたずらしたい。守りたい。力になりたい。そんな思いが連鎖的に引き出された。そして、その思いは彼女に対してだけは人一倍強い気がしたのを感じた。
喜んだり、怒ったり、幸せそうにしたりする姿を、俺はずっと見ていたいと思ってしまった。
多分、こういう事なんだと思う。
未だにはっきりした答えではないが、俺の頭の中は彼女の事でいっぱいだったし、心のモヤモヤは消えていた。
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