第167話 本当に?

 「へ…?な、なんで…?」


 心地よい風が頬を撫でる、なんて詩的な表現を考えている暇なんて俺にはなかった。それくらい、後藤の口から出た質問は俺に対する攻撃力が高かった。

 なぜなら、後藤の問題がなければ、真っ先に頭を悩ませなければならない事の一つだったからだ。

 なんでそんな事を思った?なんて答える?

 そんな無駄な事を考えている俺を他所に、後藤は軽い笑みを浮かべた。


 「いや、なんというか…皇さんを見ててなんとなく思っただけなんだけどね」


 「…は?」


 「視点が変わるとこうも見える景色が変わってくるのかぁ…ってね」


 「何言ってんだオメェ」


 意味がわからない。理解できない。

 視点が変わった結果、なんで俺に対しての質問が「皇さんが好きなの?」なんだよ。イカれてんのか?ゆーあークレイジー。


 「まぁ、別に変な意味はなしでさ、どう思ってるのかなって」


 「どうって…どうって言われてもなぁ…」


 後藤が聞いているのはおそらく、「恋愛感情があるか」という事だろう。

 好きか、と聞かれれば確実に好きだ、と答えるだろう。

 しかし、俺の言う『好き』がはたして恋愛感情から来るものなのか、俺はまだわからない。


 「…まぁ、好きか嫌いかで聞かれたら…好きなんだろうな」


 「ふむ…別に惚れているわけじゃない、と?」


 「いや、よくわからん」


 「何を言っているんだ君は」


 俺だってわかんねぇよふざけんな喧嘩すっか?お?


 「俺だってわかってねぇんだよ。なんかこう…色々ごっちゃごちゃしてて何がなんだか」


 「…ふーん」


 さも面白くなさそうに後藤は空に視線を移した。

 こいつ、殴ってもいいよな?


 「そういえばなんで佐倉君が行動を起こしたのか聞いてなかったね」


 「はぁ?んなもん嫌がらせを止めるために決まってるだろ?実際違ったけど…」


 「誰に対する?」


 「楓だよ」


 「ふーん。じゃあさ、なんで皇さんを助けようと思ったの?」


 「は?」


 「君が行動を起こしたのって、僕が高橋君にアクションかけた日だよね?偶然だって言われればそれで終わりなんだけど…違うんだろう?」


 「まぁ、そうだけど…」


 なんで、か。一番最初に思いつくのは「友達だから」だな。助けたいと思ったから助けた。それだけの話だと思うが…。


 「友達だから助けたいと思うのは変な事か?」


 「いえ全然?」


 「お前ちょっと殴っていい?」


 「だめ」


 いいかげん後藤の態度にイラッときちゃった。

 一発でいい…一発…そうすればスッキリするから!


 「…まぁ友達だからって理由ならそうなんだろね」


 「なんなんお前」


 「佐倉君ってさ、皇さんに対する嫌がらせを止めるために僕を問い詰めたんだよね?」


 「ん?あぁ、そうだよ?」


 「…どっちかって言うと、止めにきたって言うより『潰しにきた』の方が合ってると思うんだよね」


 「お前は俺をなんだと思ってんだよ…」


 俺の事をヤクザか何かと勘違いしてるんですか?


 「圧がすごかったからねぇ…そんなに皇さんに対する嫌がらせが許せなかった?」


 「当たり前だろ」


 「…それ、本当に『友達だから』ってだけなのかな?」


 「…」


 言われてみるとどこか違和感を感じた。

 言っている事は相変わらずよくわからない。

 けど、その違和感がモヤモヤとなって頭の片隅に残った。

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