第166話 解決…?
「後藤くん…!違うのっ!」
「えっと…とりあえず落ち着いて?」
予想外の来訪者に後藤も動揺しているが、一先ずは目の前で、息を切らして動揺している楓を落ち着ける事を優先したようだ。
その後、数秒もかからずに落ち着きを取り戻した楓は、小さく「ごめんなさい…」となぜか謝った。
「えっと…それで皇さん。何が『違う』んだい?」
「えと…そ、そう!旭くんはいじめなんかしてないよ!」
「え…?ほ、ほんとにいじめられてないの…?」
そう言いながら俺の方を見てくる後藤。だからいじめてないって。
俺はその視線に、首を縦に振って返事すると、何かとんでもない事をしてしまった、とでも言いたそうな顔で楓を見る。
「ほ、ほんとに?!弱みとか握られてない?!」
「大丈夫。寧ろ旭くんは私を助けてくれたんだ…」
その言葉を聞いて、信じられないものでも見るかのような目で俺を見てくる後藤。おい、お前殴るぞ?
「…そうか…結局僕は何もできていなかったのか…」
自嘲気味に言う後藤に、俺は何も言えずにいた。こういう時に何も言ってあげられないのは大変心苦しいのだが、この状況で何か言っても、変な気を遣わせてしまうのがオチだろう。それも何か違う。
「そんな事ないよ?」
それでも、楓は違った。
「…え…?」
「私、知ってるよ?後藤くんが何回か私の事、助けてくれてたの」
「へ…?いや、俺は何も…」
「…机のゴミ、片付けてくれてたの後藤くんでしょ?」
「なっ?!なんで知ってるの?!」
うーむ…何の話をしているのか全然わからない。まぁ、中学の時の話だから俺が知らないのは当たり前なんだろうけど…俺のアウェー感が凄い。
「クラス違ったのに…一歩間違えば後藤くんも危なかったのに今までお礼も謝罪もできなくてごめんなさい…」
「いや、皇さんが謝る事じゃ…」
にしても今日はいい天気だなぁ…。
帰ったら何して過ごそうかなぁ…と言っても多分、ゲームして終わりなんだろうけどね。
そんな事を考えながら薄目で空を見上げていた時だった。
「…佐倉君、すみませんでした」
「え?うん?え?」
「不確定要素が多い中、真っ先に君を疑ってしまった。本当に申し訳ない」
そう言って後藤は深々と頭を下げた。
「い、いや、俺も説明不足だったのが悪いし…まぁ、もうこの話は無かったことにって事で」
「…本当にすまなかった」
「いや、だから大丈夫だって」
きっと、後藤は普通にいい奴なんだろう。
交流の無い楓を気にかけて、行動に移す。簡単そうに見えるが、これは簡単な事じゃ無い。下手すれば自分にも被害が来るかもしれない行為。相当な勇気が必要だろう。
「んじゃまぁ、残りの昼休みを満喫しますかね。教室戻ろうぜ!」
「う、うん!」
昼休みの残り時間はもう多くはないが、談笑するくらいの時間は残っている。
俺が校舎に戻ろうと歩みを進めると、楓もその後ろに着いてきた。それを確認するついでに後藤を見ると、なぜか後藤はその場で黙って立っていた。
「どうした?後藤?」
「…ちょっと、もう一つだけ佐倉君に聞きたいことがあるんだけど、いいかい?」
「え」
「皇さん、悪いけど先に帰っててくれないかな?すぐ終わるからさ」
「えと…うん、わかった」
そう言って楓は俺と後藤を置いて校舎に戻っていった。
ちょっと待て、俺まだ何も言ってないんだが?
「おい、まだ聞くって言ってねぇんだけど?」
「それで聞きたい事なんだけどさ」
「おうおうおうおうおう?」
こいつ…なんか途端に遠慮しなくなったな。
聞こえないフリでもしてやろうか、と子供じみた事を思っていると、そんな子供じみた発想を一瞬忘れさせるような、そんな言葉が耳に入ってきた。
「…佐倉君は皇さんが好きなの?」
「…………へ?」
聞こえないフリなんて出来なかった。
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