第165話 思ってたのと違う
「…」
「…なぁ後藤、なんでこんな事したんだ?」
できる限り威圧しないように聞いてみるが、後藤は気まずそうに目を逸らしたままだ。
とりあえず後藤から何か話してくれるまで俺は黙っているしかない。数分後、もしくは数秒後、この気まずく静かな空間で声を出したのは、意外にも後藤だった。
「皇さんが何したってんだよ…」
「え?」
「なんで皇さんがいじめられなきゃならないんだって言ってるんだよ!」
「え?ちょ、は?なんでいじめの事知ってんの?」
「っ?!やっぱりそうだったんだな?!」
「え?」
今まで大人しくしていた後藤からは想像できないほど大きな声が出ていた。そして、その後藤の口から出てきたのはいじめについてだった。
「君らが皇さんを…まだいじめ足りないって言うの?!」
「え」
あれ、おかしいな。俺が楓をいじめている事になってる?うぇぇ?
「皇さんが君を見つけると、なんだかぼーっとするし、君と話す時は明らかに動揺していた!君の名前が話で出ると作り笑いを浮かべていた時もあった!」
「お、おう」
「きっと弱味でも握ってるんだろ?!」
「んー?」
全くもって身に覚えのない話に困惑を隠せないでいた。
それでも後藤はお構いなしに話を続けた。
「中学の時は助けてあげられなかった…俺が弱かったからだ…だからせめて、高校では普通に過ごして欲しいって願ってたのに…!」
そう言って後藤はいっそう睨みをきかせてくる。
…いや、ちょっと待て。
「ちょっと待ってくれ。お前、楓と中学同じだったのか?」
「…そうだよ。まぁ、あっちは僕の事知らないだろうけどね…」
「…どゆこと?」
話の内容から考えるに、一方的に知っている、と言う事になる…ストーカー?
「君、かなり失礼な事考えてるだろ」
「い、いや?そんな事ないぞ?」
心の中を見透かされたようなセリフに少しびっくりしてしまう。
どいつもこいつも俺の心を読みすぎなんだよ。怖ぇよ。
「んで、どう言う事なの?」
「…見てたんだよ。いじめを…いじめられているところを…」
「…まぁ、同じ中学なら見かけても不思議じゃないだろ」
「違うんだよ。見てただけなんだ。見ているしかできなかったんだよ」
「…」
「声をかける事も、先生に言う事も、自分の身を優先して目を逸らしてたんだよ。そうして逸らし続けた結果…皇さんは学校に来なくなってた…。罪悪感、申し訳なさでいっぱいだった…」
…なんか、思ってたのとだいぶ違うんですけど?
ただの自己満野郎だと思ってたけど、普通に良いやつなんじゃないか?うぇぇぇ?
「高校に入って皇さんの存在に気づいたのは二学期の後半くらいだった。ついでに君の存在も。なぁ佐倉君。頼むからもうやめてくれないか?別に大事にするつもりはない。だから頼む」
そう言って後藤は深々と頭を下げた。
ここで「いやだ」なんて言ったら一生の悪者になれるだろう。でも俺にその気はない。というかまず誤解だし。
まぁでも、なんにせよ後藤が行動を起こした理由はわかった。
「だからあの紙切れを…」
「そうだよ。どうせ君と仲のいい高橋君もグルなんだろ?」
oh…高橋きゅん…。
「いや…そもそもいじめてないんだが」
「そんな事言って、僕が信じるとでも?」
「ですよねぇ〜…」
いや、どうしろって言うんだよ。
どうにか後藤を説得できないものか頭を悩ませる。何かうまい具合にこの場を丸く収める理由はないものか。
そんなことを考えていると、校舎の角から走ってくる音と、焦ったような声が聞こえてきた。
「ま、待って!」
一旦考えるのをやめて、そちらの方を向くと、どっちかと言うとこの場にいてはいけないような人物が走って来ているのが見えた。
「は?楓?!」
「す、皇さん?」
俺たちの話題の人物、皇楓。
その楓がなぜか、血相を変えてこの空気の中に飛び込んできた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます