第164話 間抜けなマグロ
「…ま、予定通りだわな」
楓に告白された次の日。まず高橋に宛てられた紙切れの問題を解決すべく、俺は早めに学校に来ていた。そして自分の靴棚の中を見ると予想通り…紙切れが入っていた。
俺はなんの迷いもなく、その紙切れに書かれている文字を読む。
『皇楓に近づくな』
「うっはぁ!」
こうも簡単に釣れてしまうと逆におかしく思えてしまう。
悲しいかな。これが現実なのだよ。この世に不可能犯罪など存在しないのだよ…言ってみたかっただけです。
「はぁ…」
実際、なんでこんな事をしているのかはわからない。理由なんて本人にしかわからない。だったら聞けば良い。脅迫とも嫌がらせとも取れるこの文を考えた犯人に聞けば良い。
そう思いながら他の教室を覗きながら朝を過ごした。
…
時は昼休み。
じめっとした空気が漂う校舎裏。そこには俺と、もう一人の生徒の二人きり。
「いやぁ〜わざわざごめんね?」
「…別にいいですけど…なんなんですか?」
そう言って明らかに不機嫌そうにする後藤大志(ごとうたいし)君。昨日、D組の前で困っていた俺に声をかけてくれた心優しき男子生徒だ。見かけはな。
「まぁ、時間もないしさっさと聞いちゃうか」
そう言って俺は二枚の紙切れを後藤に向かって突き付けた。
「…あんただな?これ書いたの」
「………なんですかそれ」
「おや?ご存じない?」
「知らないですよ」
この二枚の紙切れの犯人は多分、目の前にいる後藤大志だ。
「俺さぁ、今日早めに学校に来てたんだけど、そしたらこれが俺のとこに届いてたんだよね。て事はさ?俺より早く学校に来てる人が怪しいんだと思うんだよ。今日の朝、俺より早く学校に来てたのって君くらいなんだよね」
まぁ、本当は俺の話し相手のために大地を早めに登校させていたのだが、言うと面倒なので言わなくても良いだろう。
「いや?君のクラスにも一人いましたよ。なんなら僕より早かったはずです」
「…へぇ、なんで知ってんの?」
「っ?!」
「てか俺、君に何組か言ってないよね?」
「そ、それは…」
急にしどろもどろになる後藤。
残念ながら、反論を考えさせるほど俺は優しくはない。
「なぁ…お前だろ?これ書いたの」
「ち、ちが…」
「そう言えば俺の友人が妙な事を言ってたな。後藤君、君が俺のクラスの名簿表を見に来てたって」
「は…?」
朝早くに来ていただいた大地様には感謝だな。お陰でジュースを奢るハメになっちまったぜ。
ちなみに後藤の事を知っていたのは大地が変態だからだ。まじであいつの情報はどこから出てるのか疑問だわ。他人の事知りすぎなんだよ。
俺はそんな事を考えながら、威圧的に目の前の人物に声をかける。
「なんでこんな事してんの?」
「し、知らないですよ!僕だって忙しいんですから!そんな紙切れ、僕が作った証拠はあるんですか?!書いたって証拠は?!僕が靴棚に入れたって証拠は?!」
そこで初めて後藤は大声を上げた。あーあ。
「…ねぇ後藤君」
「な、なんですか」
「俺さ、『靴棚に入ってた』なんて一言も言ってないよな?」
「………………ぁ……」
そこで、ようやく自分が何を言ったのか理解したのか、後藤は力無く声を漏らした。
はい、間抜けなマグロの一本釣り成功。
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