第163話 そろそろの覚悟
「……………………え…?」
一瞬耳を疑った。それでも、今の楓の言葉は聞き間違えようがなかった。
『…私、旭くんの事…す、好きだよ』
確かに『好き』と言われた。でも、その『好き』が何に対してなのかが問題だ。
聞かなくてもわかる。それでも、聞かずにはいられなかった。
「えっと…それって…あのー…恋愛感情、的な…?」
そう聞くと、目を逸らしながらも楓は首を縦に振った。
「私は…!佐倉旭くんの事、一人の男の子として好きですっ…!」
「っ…?!」
顔を赤くさせながらも、今度は真っ直ぐに俺の目を見て言う楓に、俺の視線は楓に釘付けになった。
俺からしたらとても小さい両の手をスカートの裾と一緒にギュッと握り震わせている事から、相当な勇気を振り絞ったのだろう。
やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいはやく返事しなきゃ!
「えっと…」
告白してくれた事に関しては凄く嬉しい。
でも、その『嬉しい』が恋愛感情からくるものなのかはよくやかっていない。
じゃあ好きじゃないんじゃないか?
だったら話は簡単だろ。断ればいい。
なのに、どうして俺の口からは断りのセリフが出てこないんだ…?
「…」
「…」
沈黙が気まずさに変わる。
楓と一緒にいて、こんなに気まずくなったのはいつぶりだろうか。
というか黙ってちゃダメだろ。俺が返事しなきゃダメなのになんで俺が黙ってるんだよ…!とりあえず何か喋ろ!
「か、楓!俺は…」
「…ううん、大丈夫。返事はいらないよ」
「…………へ?」
予想外の言葉に対して間抜けな声が出てしまう。
…返事はいらない…?
「…楓?」
「ご、ごめんね!急に変な事言っちゃって!私、旭くんは朝香ちゃんが好きだって…なんとなくわかってたんだけど…」
「…へ?」
何を言われているのか、理解できなかった。
「わかってたんだけど…言えないまま終わるのは嫌だから、せめて…せめて伝えるだけ伝えようって思って言ったんだ…」
そう言って楓は街を見下ろす。
「旭くんは断るってわかってる。でも旭くんは優しいから、私が傷付かないような断り方を頑張って探してくれてる。私は…私はそれだけで十分嬉しいよ…!」
楓の瞳から大粒の雫が溢れる。それに気付いた楓はハッとして、制服の袖で拭う。
「…ご、ごめんね…!だから、今日の事は忘れて、明日、また普通に接してくれると…嬉しいな…!」
そう言って目元を赤くしながら作り笑いを浮かべた。
「ま、ちょっと待ってくれよ!」
「あ、ごめんね旭くん!今日これからちょっと用事があるから…!」
「楓?!」
「また明日!」
そう言って階段を降りようと背を向ける楓。
俺はまた、無責任に事から逃げるのか…?ふざけるな…。
気がついたら体は楓に向かって動いていた。
俺は楓の右手をギュッと掴んで引き寄せ、無理やり俺に顔を向けるようにさせた。
「待てって!!!まだ何も言ってねぇだろ?!」
「…あ…旭くん…?」
こんなの、ただの八つ当たりだ。
自分の不甲斐なさにイラついて、目の前の女の子にぶつけることしかできない最低な男。
思えば、楓に対してこんなに大きい声を出すのはもしかしたら初めてかもしれない。こんなのもう許されないだろ。
でも、自分の事もわからない最低な男を楓は『好き』と言ってくれた。
ならばいい加減、終わらせるべきだろう。楓との事も、伊織との事も。このなぁなぁで留まっている関係を。
決断をするにはあまりにも遅すぎた。
だから、もう答えを出せ。
「…なぁ楓」
「旭くん…?」
「……一週間、一週間時間をくれないか?」
「…へ?」
「絶対に答えは出すから!…今ちょっと問題が色々あってさ。だから…」
だから…なんだ?保留にさせてください、って?馬鹿じゃねぇの?全然反省してないじゃん。ふざけんなよ。
「…だから…」
「…うん、わかった」
「…へ…?」
「待ってるね。だから焦らなくてもいいよ」
そう言って楓は笑った。
「ゆっくりでいいよ?旭くんには無理してほしくないから…」
「…あ、甘やかさないでくれ…」
楓は優しい。優しすぎる。だからその優しさに甘えてしまっていたのだろう。だが、今回はそうはいかない。
「…三日だ…」
「え?」
「やっぱり三日以内に答えを出す!」
「えぇ?!あの、焦らなくてもいいって…!」
「いいやダメだね!もう決めた事だから!」
「あの!旭くん?!落ち着いて!」
これくらいやらないと俺はまた、同じ過ちを繰り返してしまいそうだ。
『期限』は必要だ。
限られた時間内に効率の良い考え方と行動しかできないように制限をかける。思えば俺には無駄な行動が多かった気がする。
だから、今はまず、目の前の問題を解決しろ。
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