第161話 偶然一致

 近くのファストフード店に寄って、音羽先輩はアイスコーヒーとパンケーキ、私はオレンジジュースを頼んで適当な席で向かい合って座った。


 「楓ちゃんはそれだけでいいの?」 


 「あ、はい、大丈夫です」


 「ごめんね?私だけ」


 「い、いえ…」


 お誘いに乗ってみたはいいものの、これからいったい何を話すことになるのかを考えると、不安で会話を切るような返ししかできなくなってしまう。

 音羽先輩との会話をこんなに気まずく思ったのは初めて会った時以来だ。


 「どう?二年生になってみた感想は?」


 「えと、まだそんなに実感はないです」


 「まぁ、まだ早いからね」


 そう言って音羽先輩はパンケーキを頬張って頬を緩ませた。そしてコーヒーを飲んで真面目な顔をしたかと思うと、今度は悪戯っ子のような笑みを浮かべた。


 「それで、楓ちゃんの恋のお悩みとは?」


 「へ?!」


 「告白とかはしないの?」


 「〜?!」


 「…まぁ、無理に話せとは言わないけど…私としては気になるなぁ。楓ちゃんが好きになった人」


 「うぅ…」


 もう、相談するだけしてみようかな…?

 音羽先輩ならふざけて揶揄う、なんて事はしないと思うし…。

 私は恥ずかしさを押し殺しながら声を絞り出すことにした。


 「その…もうこういうのやめようと思ってるんです…」


 「へ?どういう事?」


 「告白とか、恋人とか…そういうのを求めるのをやめようかなって…」


 「…一応、理由を聞いてもいい?」


 音羽先輩の声のトーンが少しだけ低くなった気がした。

 やっぱり、私が思った通りこの人は最終的には真面目に聞いてくれるみたいだ。


 「えと…私の好きな男の子には幼馴染の女の子がいるんです。女の子は多分、男の子の事が好きなんだと思います。男の子の方も…多分そうなんだと思います…」


 「…」


 「お互いを知って知られての関係で、遠慮なく言葉を交わせる仲、そんなところに私が入っても無駄だと思うんです」


 自分で言っているのに、なぜだかとても悲しい気持ちになる。


 「だから…それなら私は友達のままでいいかなって…それなら旭くんたちの邪魔もしなくて済む…し…」


 「…ぇ?あさ…ひくん…?」


 話は終わったのに顔を上げる気になれない。私は今、どんな顔をしているんだろう。音羽先輩はどうな顔をしているんだろう。呆れてるのかな?

 そんな事を考えていると、コトッとコップを置く音が聞こえた。


 「…そっか…楓ちゃんの好きな人って旭君だったんだ…」


 「えっ?!どうして…あっ!えと…!…はい…」


 つい口から出てしまった旭くんの名前。慌ててなかった事にしようとするけれども言ってしまったものは取り消せない事に気づくのに時間は要らなかった。


 「そっか…うん!わかった!旭君、いい人だもんね!」


 そう言う音羽先輩の顔は笑っていたが、どことなく悲しそうに見えた。

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