第160話 あの日のこちら

 その日の放課後は、きっといつもより憂鬱だったと思う。

 一人で帰り道を歩きながら、さっきの事を思い出す。


 『あ、旭』


 『天使じゃん』


 C組の教室の前で、見慣れた人を見かけた。

 旭くんと朝香ちゃんだ。


 『な、何言ってるの…』


 旭くんの言葉に嬉しそうにする朝香ちゃん。

 …いいな…仲良さそうで…。

 旭くんと朝香ちゃんは幼馴染の関係で、小さい頃からずっと一緒だったみたい。きっとお互いを知ってお互い分かり合っているんだと思う。

 それを見ているだけで、胸の奥がキュと締め付けられる感覚がした。

 どうやら旭くんと朝香ちゃんは今日、一緒に帰るみたい。

 …羨ましいな…。あんなに仲良くて、距離が近くて…私が入る余地なんてなくて…。

 言いようのない感情が胸を圧迫する。

 朝香ちゃんは多分、旭くんの事が好きなんだと思う。本人から聞いたわけじゃないけど、見ていたらなんとなくわかった。

 旭くんはわからないけど、悪くは思っていないと思う。だって楽しそうにお話ししてるんだもん。


 「はぁ…」


 周りには誰もいない。静かなため息が辺りに響いた。


 「どうしたの?ため息吐いちゃって」


 聞き覚えのある声が耳に入ってきた。

 私は声のした方を見ると、懐かしい人がそこには立っていた。


 「え?!音羽先輩?!」


 「久しぶりだね」


 そう言って少しだけ笑うその人物は、元生徒会副会長、雨宮音羽先輩だった。

 音羽先輩はお兄ちゃんが生徒会長だから、お兄ちゃん経由でたまに会ったり話したりする事があった。だからお互い、お兄ちゃんについての愚痴をよく言い合っていた。


 「えと、どうして先輩が…?」


 「私は大学の帰りだよ。そしたら楓ちゃんがため息吐いてるの見えたから」


 「ぁぅ…」


 恥ずかしいところを見られてしまった。


 「それで、学校で何かあったの?」


 「えと…それは…」


 人に自分の恋愛事情を話すのは凄く恥ずかしい。でも何か答えないと…でもなんて答えればいいの…?


 「…恋愛?」


 「っ?!」


 「あ、それ図星って顔だね」


 まだ何も喋っていないのにどうしてわかったんだろう。


 「楓ちゃん、恋する乙女って顔してるよ」


 「へ?!」


 「顔、赤いよ?」


 「〜?!?!」


 今すぐにでも隠れられるのなら隠れたい。自分の気持ちを見透かされた事と隠しきれなかった事での恥ずかしさが私を襲った。


 「…ねぇ、楓ちゃん」


 「…はい?」


 「今からちょっとお話していかない?」


 音羽先輩は優しい笑顔でそう言った。

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