第159話 メッセージリベンジ

 「…それで旭くん。今日はどこに行くの?」


 疑問五割、不信感三割、期待二割といったところか、そんな視線を俺に向けながら楓は聞いてきた。

 D組で楓を帰りに誘ってからしばらく時間が経ったが、帰り道を歩いている今でも、犯人と思われるやつからは、特に不審な動きは見られなかった。

 だから後は楓を家まで送って、明日からの犯人の行動に気をつけるだけなのだ。


 「…ごめん、特に考えてなかったわ」


 「へ…?」


 「いや、ただ楓と一緒に帰りたかったってだけなんだよね」


 「…え?!な、へ?!ななな、え?!」


 「えな?へな?」


 顔を真っ赤にしながら動揺する楓。

 どしたよ楓ちゃんや。今日そんなんばっかりじゃないか。


 「と、いう事でですよ。どこか寄りたいところとかある?」


 「え?えと…んと…寄りたいところ…う〜ん…」


 「いや、ないなら無理しなくてもいいよ?」


 「ま、待って!あるから!えっと…」


 どうしてそこまで悩むのだろう、と思ったが、折角だから寄り道して帰りたいとかそんな感じなのだろう。ないものを捻り出そうと一生懸命考える楓を見て、かわいいと思ってしまった。


 「あ…」


 悩む楓を眺めながら帰り道を歩いていると、何か思いついたように楓は声を漏らした。


 「ん?なんかあった?」


 「う、うん。でも…ちょっと歩くんだけど…大丈夫?」


 「だいじょーぶ!どこまでも着いていきますぜ!」


 「そっか…うん。じゃあ行こっか」


 そう言って楽しそうに前を歩く楓を見て、なんとなく嬉しい気持ちになった。



 …



 「えと…別に何かあるっていうわけじゃないんだけど…」


 「わぁお…」


 無意識にそんな声が漏れてしまう。それほど目の前の光景に心が奪われていた。

 楓に連れてこられたのは、山道の長い階段を登った先の古い神社だった。

 だが、別に神社を見て声が漏れたわけではない。本命は階段を登り切った後に後ろを向くと見える、街全体の景色だ。夜の闇に放たれる光が綺麗とか、夕焼けが幻想的だ、とかそういう景色ではない。

 現在時刻は三時五十分。澄んだ空気に時折吹く涼しげな風が頬を撫でる感覚と目の前の壮大な景色で、ここにいる時間だけ別世界にいるような感じがした。


 「はぇ〜…俺、この辺にずっと住んでるのにこんなのとこ全然知らなかったわ」


 「あはは…そうだよね。だって看板も何もないんだもん。それに山道だし、誰も近づかないんだと思うよ」


 確かに、ここに来るまでに神社の案内板も見てないし、なんなら神社自体ももう、何年も手入れされていないように見える。


 「よくこんなところ見つけたな」


 「うん…中学生の時、何もかも嫌になって…家に帰るのも嫌になっちゃって…一人になりたくて…それでたまたま見つけたんだ」


 「…そっか」


 なるほど確かに。ここなら誰も来ないし、気を紛らわすにはもってこいの場所だな。


 「今でも一人になりたい時はここに来るんだ」


 「え?それ俺が知っちゃって大丈夫?いや、俺がここに近づかなければいい話か」


 少し惜しいが、楓のためにもここに近づくのはもうやめておこう。


 「ううん、大丈夫だよ。旭くんだから話したんだもん」


 と、微笑を浮かべ、男の子が勘違いしそうな言い回しをしてくる。楓にそんな気はないのはわかっているのに、少しだけドキッとしてしまった。


 「おいおいおい、そんな事言われちゃったら勘違いしちゃいますぜ〜?」


 そんな勘違い野郎の感情を潰すために、いつも通りのノリで対処してみせる。

 が、それも楓の次の言葉で無にされてしまう。


 「…私、旭くんの事…す、好きだよ」


 頬を朱に染め、覚悟を決めたような顔で楓は言った。

 戸惑わず、ぎこちなく、躊躇なく、そう言った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る