第158話 ヘイト

 「んじゃな大地。後は頼んだわ」


 「はいはい。今度ジュースぐらい奢れよ〜」


 「へーい」


 放課後となった今、俺は大地に別れの言葉を告げて、急いでD組に向かう。

 その際、俺はあの手紙の主はどうすれば動いてくれるのかを考えていた。そもそも、犯人の行動を目撃するには、攻撃対象を高橋から俺に帰させなければならない。犯人の目的は、楓に近づく男子を離れさせる事。ならば、まず犯人には俺の存在を認知させなければならない。

 D組の教室の前に着いたところで、入り口から中をチラッと覗いてみる。俺が早すぎたせいで、まだほとんどの生徒が帰り支度の途中だった。そして放課後だからか、結構うるさい。まぁ、クラスが違うからって学生は学生だ。俺たちと同じなのだ。

 本来、俺だってテンション上げて帰り道に車に突っ込むくらい浮かれているはずなのだ…いや、さすがにそれはない。

 そんなどうでもいい事を考えながら、D組に突入しようとしたところで、それは止められた。


 「…あの…誰かに用ですか?」


 「へ」


 突然の後ろからの声のせいで、間抜けな声が出てしまった。

 声の主の方を見ると、そこには気が弱そうな男子生徒がいた。


 「あ、すみません。さっきからチラチラと教室見てたので…誰か探してるのかな…と」


 おっと、誰だそいつは。まるで不審者じゃないか!えっ、俺?誰が不審者だよ。


 「あ、あぁごめん。邪魔だった?」


 「あ、いえ、大丈夫です」


 「…」


 「…あの、もしよかったら呼びましょうか?」


 「あ、ほんと?たすか…」


 助かる、そう言おうとしたところで、視界の端に映った人物に視線を奪われた。楓だ。

 何か提出物でも出して帰ってきたのか、俺と反対側の扉から教室の中に入っていくのが見えた。


 「あ、いいや。今見つけたわ」


 「あ、了解です」


 そう言って男子生徒は教室の中に入って行った。


 「さて…」


 今回のミッションは、楓と一緒に帰る事。そしてもう一つ、犯人に俺の存在を認知させる事。犯人はこのクラスにいるって事だから何かするならここしかない。

 …でも、どうやって?

 目立つって言っても、どうやって目立てばいいんだ?歌ったり叫んだらすればいいわけ?僕、アイドルじゃないからわかんな〜い。


 「ん?あ、そっか」


 そこで頭の中である結論が出る。

 よく考えたら、目立つなんて簡単な事じゃん。

 そう思いながら俺は教室に入らないようにしながら身を乗り出し、楓を呼ぶ事にする。


 「おーい、かえでー!」


 迷惑にならない程度の大きい声で楓の名前を出す。

 すると俺の思惑通り、何人かがチラッとこっちを見たのがわかった。

 そして、当の本人はというと…。


 「へっ?!あ、あ旭くんっ?!どどどどどうしたの?!」


 めっちゃ…動揺してますやん…。

 そんな楓には申し訳ないが、早めに要件を伝える事にする。


 「なぁ楓。この後なんかある?」


 「へ?と、特にないけど…どうしたの?」


 「あ、んじゃ、一緒に帰ろうぜ」


 「え?うん…へ?へっ?!」


 と、漫画にでも出てきそうな動揺を再びする楓。いや、どったのさ。


 「あ、別に無理しなくていいぞ?」


 「っ!い、行く!ちょ、ちょっと待っててね!」


 そう言って『ピューっ』て効果音でも付きそうな勢いで俺から離れていってしまった。

 楓が戻ってくる間、D組の中を見渡してみると、さっきの男子生徒と目があった。ちょっと不機嫌そうだった。ごめんね?うるさかった?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る