第152話 癒しを取らないで!

 「…ごめんね、旭くん…」


 店に向かう途中、楓が急にそんな事を言ってきた。


 「へ?何が?」


 謝られる理由がわからない。もしかして文房具屋というチョイスがダメだったか…?


 「あ、ごめん。もしかして文房具屋が嫌だった?」


 「へ…?あっ!違うくて!そうじゃなくて!」


 あ、違うんだ。てっきり「ごめん、やっぱ行きたくないや」って感じで謝られたのかと思ったわ。


 「その…旭くん、私に気を遣って誘ってくれたんでしょ?」


 「え、な、なんのことですかね〜…」


 バレてますやん。こういうのって、バレるとメチャクチャ恥ずかしいんだよ。くっ…!殺せ!


 「旭くんは優しい人だからね。わかるよ?」


 楓はそう言うと、ふんわりと優しい笑みを浮かべた。


 「お、おう…」


 その笑顔に、俺の鼓動が少し早くなるのを感じた。

 いや何それかわいい。それやべーわ。効果抜群だわ。


 「そ、それで、結局俺に何言おうとしてたんだ?」


 若干の照れ臭さを隠すために、本来の話に強引に移行させる。


 「え、えと…さ、最近…旭くんとお話してないな…って…だから…」


 そう言って恥辱からなのか、頬を少し赤く染める楓。え?


 「え?それだけ?」


 「…う、うん…」


 「…」


 「…ご、ごめんね!?変な事言っちゃって!」


 「い、いや…」


 なんだ…何か困り事とか相談事とかだと思ってたけど、そういう暗い話じゃなかったのか。そう思うと、途端に笑いが込み上げてきた。


 「…クフフ…」


 「な?!なんで笑ってるの?!」


 「いやだってさ!何話されるのかと思ったら…クッハハハ!」


 「〜?!」


 少しだけ朱が差していた頬が途端に真っ赤になる楓。いやごめん、ほんとごめん!


 「はぁ〜…いやごめんごめん!でもよかったわ。暗い話でもされるのかと思ってたからさ」


 「ご、ごめんなさぃ…こんな変な理由で呼びつけちゃってぇ…」


 「あの、ごめんね?ちょっと笑いすぎたわ。気にしてないから」


 そう言っても、楓は一向に目を合わせてくれない。うん、やりすぎましたね。


 「別に態々呼びつけなくても適当に話しかけてくれていいんだぜ?」


 とりあえず話を進めるためにそんな事を言う。


 「え?でも…迷惑じゃ…ない…?」


 不安そうに俺を見上げる楓。


 「さっきファミレスでも言ったけどさ、クラスが離れたからって友達辞めるわけじゃないんだからさ、もっと気楽に行こうぜ?」


 「気楽に…?」


 「そ、気楽に」


 寧ろ急によそよそしくなられる方が俺にとっては迷惑だ。


 「というか、俺の癒しを取らないでくれ」


 「…?」


 楓は訳がわからないと言ったような表情で俺を見る。あらかわいい。


 「とにかく!変な気ぃ遣わなくていいから!」


 「…うん…」


 そうゆっくりと返事をした楓の顔は、スッキリしたような、安心したような顔だった。

 まぁ、陽斗先輩にもよろしく言われてるし、今後も俺は楓を気にかけるつもりだよ。

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