第151話 離れても集まるのがオチなのさ

 「…それで、そっちの孤立した方々はどうだったんだ?」


 ニヤニヤしながら高橋はそう聞いてきた。


 「孤立してねぇわ!こっちには美波がいるんだぞ!」


 「そうだそうだ!」


 「どうしたお前ら」


 放課後、今日は自己紹介やら明日の予定やらを話して終了となった。

 予定のない俺は適当に本でも見て帰ろうかと思っていたのだが、廊下で美波に首根っこを掴まれて連行されたさてしまった。

 その結果現在、俺、高橋、伊織、佐藤、陽葵、美波、楓、がファミレスで向かい合っていると言う謎の状況が発生している。

 俺は頼んでおいたフライドポテトを二、三本口に放り込み、呆れたような仕草をする。


 「だいたい、クラス離れたからって疎遠になるわけじゃないだろ?」


 「ま、そうだな」


 そう言って高橋は俺のフライドポテトを一本口に放り込んだ。おいてめ。


 「でも私は楓ちゃんと離れ離れになって寂しいよ〜!」


 「ちょ、ちょっと、美波ちゃん?!危ないよ?!」


 オレンジジュースをストローで飲んでいた楓に、奇声を上げながら美波が抱きつく。美波が抱きついたことによってグラスが傾き、オレンジジュースが溢れそうななっていた。


 「楓ちゃ〜ん…私の事、ちゃんと覚えてくれる…?」


 「大丈夫だから、ね?私も…その…寂しいから…」


 「うわぁ〜ん!楓ちゃ〜ん!」


 「だ、だから危ないよ?!」


 俺は何を見せられているのだろうか。仲が良いのはいいけど、少しは場を弁えなくてもいいですもっと仲良くしててください。こりゃポテトが捗りますわ。

 俺はポテトの皿に手を伸ばしたが、その手はポテトを掴む事はなく、空を切った。ない…だと…?

 俺は速攻で高橋を見る。高橋は何かをモシャモシャと食っていた。


 「おいてめ」


 「ん?」


 「ポテト返しやがれこの野郎」


 「安心しろ、もう一つ頼んでおいた」


 「よくやった」


 「…単純すぎない?」


 そう言って俺と高橋の会話に入ってきたのは、呆れた顔をした伊織だった。


 「単純じゃないよ。馬鹿なんだよ」


 と、陽葵がカフェオレを飲みながらそんな事を言ってきた。


 「何を今更。高橋は馬鹿だぞ」


 「いや、お前のことだからな?」


 「いや、どっちもだよ。同類だよ」


 「「なん…だと…?!」」


 陽葵に言われ、俺と高橋は同時にショックを受ける。同類…だと…?


 「あっ!そうだ!今度みんなでどっか遊びに行こうよ!」


 「おっ、いいじゃんいいじゃん!」


 突然なんの前振りもなくそんな事を言った美波に、佐藤が賛同の意を示した…佐藤…?


 「…そっか、佐藤、いたんだな…」


 「酷くね?」


 「いや、全然喋ってなかったからさ」


 「…どのタイミングで話に入ろうか迷ってたんだよ」


 「なんだお前、コミュ障かよ」


 「うるせぇわ」


 そう言って佐藤はポテトを鷲掴みにして一気に頬張った。いや、だからそれ俺のやつ。


 「ねぇ!いいでしょ?!ねぇ〜!」


 「遊びにって言ってもどこにだよ」


 「…考えとく!」


 「考えてから言えよ…」


 そもそもまだ、みんなの了承を得ていないだろ。


 「じゃあ、場所が決まったら教えてね」


 「俺も」


 「俺も〜」


 「私も」


 「じゃあ、メッセージグループでも作っちゃいますか!」


 あ、結構みんな乗り気なのね。




 「じゃ、そろそろ解散ですかね。ほらお前ら!金出せ金!」


 「言い方よ」


 佐藤の言葉で、みんなそれぞれ帰る準備を始めた。

 時刻は午後五時半。帰るにはちょうど良いくらいの時間だ。

 俺も佐藤に自分の頼んだ分の金を渡し、適当に鞄の中を整理して席を立つ。


 「んじゃ、先外出てるわ。久しぶりのシャバの空気だぜ」


 「誰だよお前」


 呆れる高橋に手をひらひらと振りながら、俺はファミレスの外に出る。

 四月の空気は暑くも寒くもなく、それはそれは心地のいい温度だった。


 「…あの…旭…くん…」


 みんなが出てくるまで適当に体を伸ばしていると、後ろから声をかけられた。


 「ゔぇ?」


 伸びの最中に返事をしたからか、変な声が出てしまった。


 「あ…ご、ごめんね!」


 「あぁ、いや…」


 俺の次に外に出てきたのは楓だった。

 珍しいな。楓なら他のみんなと一緒に出てくると思ったんだけど。


 「どったの?」


 「え…と…」


 言いにくそうにする楓を見る。

 単独で外に出てきたって事は、他のみんなに聞かれたくないような事か?相談事?

 なんにせよ、出来る男なら気を利かせるべきだろう。俺は出来る男、旭だ。異論は認めん。


 「あー…あれだ…楓って勉強できるじゃん?」


 「…え?」


 「だからその…俺、文房具屋に寄って帰ろうかと思ってるんだけどね?」


 「う、うん」


 「一緒に探してくれない?」


 「…」


 いや、何言ってんだろう、俺。

 なんかもう、適当に思いついた事ポンポン言っただけだから日本語もおかしいぞ。気を利かせるどころか気を使わせちゃいそうなんだけど?


 「わ…私でよければ…!」


 「いや、そんな気張らなくてもいいよ?」


 まぁ、とりあえず作戦は成功したらしく、楓も俺も文房具屋に行くことになった。


 「どんなのが欲しいの?」


 「え?うーん…使っても疲れないペン」


 「…うーん…あるのかなぁ…」


 「それがあるんですよ奥さん」


 文房具屋とか久しぶりに行くなぁ…。

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