第150話 二年生

 「んで、あんた誰?」


 「あー、そういえば言ってなかったな」


 謎の男子生徒がコホンと一つ咳払いをして、俺と美波を交互に見る。


 「俺は水樹大地(みずきだいち)。苗字だと女の子っぽくなっちゃうから、できれば名前で呼んでほしい」


 「わかった。大地君だね?」


 「わかった。水樹ちゃんだね?」


 「…なるほど、これが噂の佐倉旭か…」


 いや何?どんな噂流れてんの?ちょっと怖いんですけど。


 「冗談だって大地。これでいいだろ?」


 「ん?あぁ、おっけーおっけー。てっきり『水樹ちゃん』でいくのかと思ったわ」


 「…なぁ美波、俺ってどう思われてるんだ…?」


 「さぁ?狂人…とか?」


 「おい」


 今は冗談言うところじゃねぇぞ…冗談だよな…?


 「あはは!知り合いにまでそんな事言われるって事はよっぽどって事じゃん!」


 「なにわろてんねん。何がよっぽどなんだ?おん?」


 こいつ…高橋よりはウザくないけどウザいな。いや、十分ウザいわ。殴りたくなっちゃう。殴っていい?あ、手が勝手に動いちゃう。

 その時、教室の扉が勢いよく開く音が聞こえ、大地の笑い声が一瞬で小さくなった。それもそのはず、教室の扉を開けたのは生徒ではなく、先生だったからだ。


 「さて…全員いるか?席につけ」


 聞き覚えのある声の先生が教室のみんなを制す。

 見渡してみると、いつの間にかだいぶ時間が経っていたのか、さっきより教室の生徒の数が多くなっていた。

 そして、わらわらと喧騒に包まれていた教室は一気に静かになり、皆一斉に先生の方を見る。


 「えー、今日からこのクラスを担当する、三島唯奈だ。よろしく」


 二年C組の担任は三島先生だった。またかよ。

 いや、変に気を張らなくてもいいから楽っちゃ楽か。


 「佐倉弟、今余計な事を考えなかったか?」


 「考えてません」


 だからサラッと心を読まないでください。


 「今年は問題を起こすなよ」


 「僕がいつ問題行動をしたって言うんですか?!」


 心外だ!


 「遅刻」


 「すみません」


 「文化祭」


 「すみません」


 ちくしょう!頭が上がらねぇ!

 俺と先生のやりとりに、教室に少しの笑いが起こる。そしてそれを制す先生。


 「今日から君たちは二年生だ。去年とは違い、立場が少しだけ上になり、下には後輩がいる。君たちは導かれる立場から導く立場になった。だから変な行動は起こさないように」


 おぉ…なんかそれっぽい事言ってるわこの人。


 「…まぁ、問題行動さえしなければ私としてはどうでもいいのだが」


 台無しだよ。教師の皮を被っただけだったわ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る