第147話 祝水

 「…これ、今日の晩飯ってカレーだよな?」


 買い物を終え、買い物袋の中に入っている、さっき買った食材たちを見て呟く。人参、じゃがいも、豚肉、玉ねぎ、そしてカレールー。


 「そういえば、久しぶりにカレーだな」


 カレーパンなら最近昼飯で食べたいなけど、カレーライスはここ最近、食べた記憶がない。

 カレーって作るの大変なのだろうか。てか陽葵もよく毎日料理しようと思うよな。嫌になったりしないのだろうか。


 「たまには楽させないとなぁ…」


 と、言っても俺は料理ができない。ラーメンを煮込むだけならできるが、陽葵のように本格的なものは何一つできない。


 「…ん?」


 今度調べてみるか、そう思っていたところで周りが騒がしい事に気づく。

 まぁ、主に騒がしいのは華野高校、俺の通ってる高校だったのだが。

 気がついたら学校の近くまで来ていたらしい。

 そういえば今日は合格発表だったな。おぉ、喜んだら喜んでる。あっ、あいつ落ちたっぽいな。すげーわかりやすく落ち込んでるわ。


 「あの中の誰かが後輩になるのかねぇ…」


 まぁ、俺は部活も特にやってないから後輩と関わる機会なんてなさそうだけどな。

 そんな事を考えていると、一人の言葉が頭によぎった。


 『私、佐倉さんと同じ高校行くつもりなので』


 「…あ…」


 そういえばいたわ。水無瀬、俺の後輩になる可能性が一番高いやつ。

 あいつは合格したのか?

 俺は校門の前から人だかりのできている方に目を向け、水無瀬を探す。

 が、いない。


 「帰ったのか…?それとも…」


 落ちたか…?


 「…何してるんですか?」


 「え?」


 突然横から聞いたことのある声で話しかけられる。

 声のした方を見ると、そこには目的の人物が立っていた。


 「…水無瀬か」


 「はい、水無瀬です。お久しぶりです」


 そう言う水無瀬は元気そうだった。

 そんな水無瀬を見て、俺は少し安心したのかもしれない。


 「それで、合格?」


 「当たり前じゃないですか」


 そう言って、さも当然だろうとでも言うように胸を張る。


 「そうか、じゃあな」


 「処しますよ?ちょ、待ってください!」


 気になってた事はなくなったし、もう用事はないから帰ろうとしたのだが、水無瀬に止められてしまった。


 「…何?カレーが待ってるんだけど?」


 「あ、今日の晩ご飯、カレーなんですね…じゃなくて!」


 なんか一人で喚いている水無瀬がかわいそうに見えてきた。


 「…なんですか、その頭おかしい人でも見るような目は」


 「おっと失礼」


 「ちょ〜っとお話ししましょうか〜?」


 ニッコニコ笑顔で徐々に距離を詰めてくる水無瀬。かと思うと急にむすっとし出した。うん、怖い。


 「私、合格したんですよ?何か言うことあるでしょう?」


 「あ、なるほど。合格おめでとう!」


 「はい!」


 なるほど、確かに言ってなかったな。これは俺が悪いかもしれない。


 「じゃ」


 そう言って家の方に向かって歩みを進めようとすると、服の袖をぐじゃっと掴まれた。やめてください。皺になります。


 「…何?まだなんかあるの?」


 俺は不満を隠さずに水無瀬に向き直る。

 しかし、水無瀬は気にした素振りを見せずに、俺の目を見る。その目は嬉しいのか怒っているのか、よくわからない目だった。


 「ファミレスですよ!」


 「は?」


 「この前、奢ってくれるって言ってたじゃないですか!」


 「んな事言ったっけ?」


 「処しますね」


 それ、もう処される事決定してない?


 「わかったわかった…でも今日は無理だ。カレーが待ってる」


 「そういえば言ってましたね。じゃあ今度の日曜日はどうですか?」


 「えぇ…日曜日はゆっくりしたいんだけど…」


 「じゃあ、土曜日?」


 「えぇ…土曜日はゲームしてたいんだけど…」


 「…」


 「いや、ごめんて、冗談だから」


 だからそんなゴミを見るような目はやめてくれ。

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