第148話 チーズイン
現在土曜日の昼時、俺と水無瀬はファミレスに来ていた。
奢るという文化。
日本人特有の譲り合い精神、はたまた見栄を張る精神から生まれた、相手にものを買うという文化…まぁ、適当に言っただけだから合ってるかどうかはわからないけど、大体そんな感じの事だ。
なぜこんな文化が世に広まってしまったのか。社交辞令的に、その場しのぎ的に「奢りますよ」なんて言った暁には、みるみるうちに財布から偉い人たちがバイバイしてしまう。
「何頼もうかな〜?」
だから俺はこの文化をあまり良くは思わない。
でも、奢られるのは大歓迎ですわ。ただ飯ってうまいからな。そう考えるとこの文化が最高の文化に思えてきた。
「テンション高ぇな」
「だってお金…佐倉さんと一緒に食べれますからね!」
「うーん、もうちょっと隠す努力をしようか」
今、お金払わなくてもいい、って言おうとしたよな?
「まぁまぁ、佐倉さんと一緒にいれて嬉しいのはほんとですから」
「はいはい、さいですか」
「適当ですね」
「お前も適当だろ?」
「そですねー」
そんな風に興味なさそうに返事をすると、水無瀬はメニューに視線を落とした。
「あっ!私、チーズインハンバーグで!」
「んじゃ、俺もそれでいいや」
「ん〜?なんですか〜?私と同じの頼んで仲良くなろうとか考えてるんですか〜?」
「いや、決めるのが面倒なだけだけど?」
「別にいいんですけど、サラッと言われるとムカつきますね」
まぁ、実際はハンバーグ系でいいや、と思っていたところにチーズインハンバーグが出てきたから決めただけなのだが。
頼むものが決まったところで、店員の呼び出しベルを鳴らし、二人分のチーズインハンバーグを注文する。
そしてコップの水を一口飲んで、水無瀬を見る。
「ほんとに華野受けてたんだな」
「私、嘘はつかないので」
「もうそれが嘘じゃん」
「酷いっ!私を嘘つき呼ばわりするなんて!」
「なんなのお前」
やたらとテンションが高い水無瀬。そのテンションに俺は正直ついていける気がしない。
「そういえば、『佐倉さん』じゃなくて、『佐倉先輩』って呼んだ方がいいんですかね?」
「え?うーん、なんでもいいよ」
「…もうちょっと興味持ちましょうよ…」
「えぇっ?!そんな先輩だなんて!恐れ多いですよ!」
「処しますよ?」
どうしろっていうんだよ。
「そもそも、『さん』も『先輩』もあまり変わらないだろ」
「じゃあ、『旭先輩』でどうですか?」
「いやなんで?」
どうしてそうなった。
「うーん…なんか『佐倉先輩』だと他人っぽいじゃないですか」
「他人だけどな」
「…………だから『旭先輩』ですっ!」
「はぁ?」
いまいち意味がわからないのだが。
「とにかく!もう決定したので文句言わないでください!」
「いや、特に文句はないから別にいいんだけどね?」
俺からすれば、「勝手にどうぞ?」って感じだ。
呼び方が変わったところでなにがあるわけでもないし、気にする事も特にないだろう。
そんな事を考えていると、店員が二つの皿を持って近づいてきた。
「お待たせしました。チーズインハンバーグ、二つです。ごゆっくりどうぞ」
そう言って、ハンバーグを二つ置いて、去っていった。
俺は早速、ハンバーグを切り分けるために、ナイフを入れる。すると、トロッとしたチーズが中からでてきて、大変見栄えがよろしくなって、食欲を沸かせる。
「…久しぶりに家族以外とご飯食べます…」
「ふーん、意外だな。友達とか…あ、そっか」
「なんですかその目は。その切り分けられたハンバーグ食べますよ?」
「やめろ。自分の食え」
人のものを食べようとするな。
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