第146話 行かないという選択肢はない

 三月に入ったと言う事で、色々な事が終わろうとしている。

 俺は高校一年生という立場が終わるし、三学期とかいうのも終わる。冬も終わる。

 そんなある平日の午後、俺は部屋のベッドの中に籠りながら、ソシャゲに熱中していた。


 「はぁ〜…まじ平日が休みって最高だわ…」


 今日は平日。

 社会の人間は皆、まだ働いている時間である。

 では、なぜ俺がこの時間にベッドでゲームをしているのかというと…まぁ、簡単な話、今日が俺の学校の合格発表の日だからだ。

 合格発表の日でも授業をやるところもあるらしいし、一日休みのところもあるらしいが、俺の学校は半日、午後が休みになっている。一日休みのところいいなぁ…許せねぇわ。

 そんなことを考えながらも、俺の指はスマホの画面へのタップを止めない。そう簡単には止まらんよ。

 しかし、その指が止まるまでに、数秒はいらなかった。


 「旭〜!」


 「うおっ、何?!」


 いきなり部屋の扉が勢いよく開き、陽葵が突撃してきた。


 「旭暇でしょ〜?」


 「忙しいから」


 「嘘つくな」


 そう言いながら俺を布団ごと揺らしに掛かってくる陽葵。

 おいやめろ!タップミスしたらどうすんだ?!てか酔うからやめて!

 俺の平和な時間は急に過ぎ去ってしまった。

 仕方なくゲームをやめ、陽葵に向き直る。


 「…何?遊んで欲しいの?」


 「馬鹿にしてるの?」


 「え?違うの?」


 「違うよ!」


 違うのか。

 だいたいこういう時の陽葵は、構って欲しいだけだと思っていたが、今回は違うらしい。


 「んじゃ、何?」


 「買い物行ってきてよ」


 「えぇ〜だりぃ〜…」


 「あたしは部屋とか掃除するからさ」


 「えぇ〜だりぃ〜…」


 「行かなきゃ今日の晩ご飯は無しだよ?」


 「これより、ミッションを開始する」


 本当は行きたくない。このまま寝ながらダラダラしていたい。でも、晩ご飯がないのは致命的だ。これは仕方ない。


 「んで、何買えばいいの?」


 「メッセージに送ったからそれ見て」


 「りょーかい」


 重たい腰を上げ、財布とスマホをズボンのポケットに入れて、玄関に向かう。


 「んじゃ、行ってくる」


 「気をつけてね〜」


 「へいへーい」


 いまいち気分が上がらないまま出かける事になってしまった。

 しかし、これも晩ご飯のためだ。

 そもそもの話、陽葵にご飯を作ってもらってるから、元々『行かない』という選択肢は存在しないのだ。

 …俺も料理覚えようかなぁ…。

 そんな事を思いながら、まだ寒い空の下を歩くのだった。

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