第145話 卒業

 時は流れ、三月になった。

 三学期も終盤に差し掛かり、環境が変わりつつある時期となった。


 「卒業、おめでとうございます。先輩方」


 卒業。

 全ての科目を修了し、学びを終え、学校から離れる事。

 進学するもよし、就職するもよし。

 高校を卒業する、という事はある意味、人生においてのターニングポイントだと思う。

 そんな最中にいる目の前の三人の先輩方に、人気のない校舎の一角に、空いた時間に呼び出されてしまった。胸に花の装飾をつけ、大人びた雰囲気で俺と向き合っている先輩方。


 「おいおい、旭は泣いてくれないのか?」


 「会長が泣けばいいじゃないっすか」


 「それじゃあ面白くないだろ」


 「じゃあ、俺もその理由で」


 相変わらずのイケメンフェイスで笑って見せる皇会長。


 「そういえば陽斗君が泣いてるところ、見た事ないわね。泣いてみてくれない?」


 「皇君、泣いてよ」


 「なんなんだ君らは」


 笑顔ですごいお願いをする雨宮先輩と羽月先輩。

 今、俺の目の前にいる先輩方は、今日、晴れてこの学校を卒業する。


 「ほんと、仲良いですね」


 「ふっふっふ…羨ましいだろ?」


 「いや、別に」


 「なんでだよ!」


 「えぇ…」


 いや、こっちが言いてぇよ。


 「ごめんなさいね佐倉君。陽斗君は答辞で疲れちゃって、頭がおかしくなっちゃってるのよ」


 「まぁ、会長ですもんね」


 「おいそこぉ?!」


 「あ、あはは…」


 この三人との会話は、俺は結構楽しんでいた。

 でも、それができるのも今日までだ。俺はまだ、高校に残るし、三人は別々の道を歩んでいく。

 そう思うと、少しだけ寂しさを感じた。


 「なぁ旭」


 「はい?」


 「会長って言うの、そろそろやめてもいいんじゃないか?この学校卒業するしさ」


 「いや、愛称ですよ?」


 「なんかやだ」


 「えぇ…じゃあ、陽斗先輩で」


 「うん、それでいいよ」


 そう言ってニッコリと笑う陽斗先輩。くそっ、イケメンだなこの野郎。

 そんなことを考えていると、玄関の方がうるさくなってくるのに気づいた。

 おそらく、三年生を在校生が送り出しているのだろう。


 「ほら、三人も行った方がいいですよ。『元』生徒会メンバーなんですから」


 「それもそうだな。じゃあな旭、またそのうちな」


 「じゃあね、佐倉君」


 「はいはーい」


 そう俺が言うと、陽斗先輩と羽月先輩は玄関に向かっていった。

 途中。、陽斗先輩が立ち止まって振り返ると、真剣な面持ちで口を開いた。


 「楓の事、頼んだよ」


 「…わかりました」


 それだけ言うと、陽斗先輩は玄関の方に向かっていった。


 「…それで、雨宮先輩は行かないんですか?」


 そしてなぜか、雨宮先輩は俺の目の前で残っている。

 いや、なんでだよ。


 「どしたんすか?」


 「…ねぇ、佐倉君」


 「はい?」


 何か言いにくそうにしている雨宮先輩。


 「…また、メッセージ、送ってもいい…?」


 「…はい?」


 何言われるのかと思ったら、メッセージ?なんだ?また顔文字だけの会話が始まるのか?


 「顔文字はいやっすよ」


 「あ、あれはもうしないから!」


 「じゃあ、おっけーです」


 「多分…」


 「おい」


 そこはハッキリして欲しかった…。


 「よかった…まぁ、断られても送るつもりだったけどね」


 「おい」


 なんなんだこの先輩は。相変わらずだな。

 そう思っていると、綺麗な亜麻色の髪を揺らして、玄関の方に体を向けたと思ったら、顔だけこっちを向けて口を開いた。


 「それじゃ、またね!君!」


 そう笑顔で俺の名前を言うと、玄関の方に走っていってしまった。


 「…卒業ねぇ…」


 先輩方が向かった方向を見ながら、俺は無意識にそう呟いた。

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