第143話 卑怯者はどっち?

 「…それで、結局ここに来ると…」


 俺の隣にいる伊織は目の前の店を見てそんな事を言う。


 「あのなぁ…俺は服屋もアクセサリーの店も知らないんだぞ?そんな俺に行き先を任せたらここになる事くらいわかってただろ?」


 やってきたのは近場のゲーセン。

 いや、そりゃそうなりますよ。ファッションにも流行にも興味のない俺が行くところなんてたかが知れているだろう。

 そんな俺の言葉を聞いて、不満げに、それでいて納得がいっていない顔でため息を吐く。


 「…でも私、ゲーム下手だよ?」


 「うん、知ってる」


 脇腹を殴られる。圧倒的理不尽!


 「安心しろ。さすがに考えてはいるから」


 「…ならいいんだけど…」


 それでも不満そうに俺を見る伊織。

 まぁ、デートだってさっき言ってたのに、場所のチョイスがゲーセンはないよな。それは俺も思った。けど、他にどこに行けって言うんだよ!




 「これならできるだろ?」


 「懐かしい…」


 「いや、そんな昔のものでもないからな?」


 エアホッケー。

 盤上で円盤を打ち合って、相手のゴールに入れて点を競い合うゲーム。

 ルールがわかりやすく簡単で、百円入れれば二人で、もしくは最大で四人で遊べてしまう素晴らしいゲームだ。高校生の財布にも優しい!


 「これならやった事あるだろ?」


 「うん」


 「んじゃ、大丈夫。お前、運動は出来る方だし、問題ないだろ。これやってる間に午後行きたいところ考えておけよー」


 「へっ?!そんなの聞いてない!旭も考えてよ!」


 「俺はここを提案したから次はお前の…番だ!」


 そう言って俺は円盤を伊織のゴールに向かって打つ。


 「まっ!?」


 カコンッ!と小気味いい音が響くと同時に、得点が俺に追加される。

 俺は余裕な素振りで腕を組み、決め台詞の様にカッコつけながら横を向いて言う。


 「ふっ…未熟者め…」


 カコンッ!と小気味いい音が響く。

 エアホッケーの台を見てみると、円盤が俺側の返却口から出てきていた。

 伊織を見ると、してやった、みたいな顔をしてニヤリと笑っていた。


 「不意打ちか貴様!」


 「みしゅくものめ!」


 「言えてませ〜ん!」


 「〜!!」


 「今だ!隙あり!」


 そう言ってまた不意をついて伊織のゴールに向かって円盤を打ったが、コンッという音と共に円盤は返ってきた。


 「二回も引っかからないわよ!」


 「あ、そう?じゃあ斜めに打っちゃう」


 「あっ!ちょっと!ずるい!卑怯者!犯罪者!」


 「人聞の悪い事言うな!ちゃんとした戦術だ!」


 このゲームは円盤を打ち返すのが基本の遊び方で、打ち返していれば負ける事はない。しかし、壁に反射させて斜めに打つと、軌道が予測しづらくなり打ち返しにくくなる。

 そう、予測しづらくなるのだ。

 俺が打った円盤は伊織の方に向かって行き、反射して俺の方に返ってきて、カコンッ!という音が響いた。

 何度も言う、予測しづらくなるのだ。


 「…バカなの?」

 

 「う、うるせぇ!もう一回だ!」


 そう言って伊織の方に、また斜めに打つと、伊織のゴールの方でカシャン!と音が聞こえた。え?カシャン?


 「…危なかった…」


 そう言った伊織のゴールの手前には円盤を打つ道具があり、その道具の下に円盤があって止められていた。


 「おまっ!それはさすがに卑怯だろ!」


 「違います〜!戦術です〜!」


 「いや!絶対違うから!」


 「そ…れっ!」


 そう言って伊織は俺の真似をして斜めに円盤を打つと、俺のゴールの方でカコンッ!と音が鳴った。

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