第138話 バレてました

 いったいこれはどういう事だ。なぜ伊織がここにいる?そしてなぜ俺は手首を掴まれている?てかなんでそんなに不機嫌そうなの?


 「お、おい伊織?授業始まるぞ?」


 「だめ」


 「…」


 …うーん?これはあれか?相手の気持ちを読み取りなさいってやつか?無理じゃん。


 「…来て」


 「え?あっ!ちょい!」


 「いいから!」


 伊織にしては珍しく、かなり強引に従わせようとしている。正直、力自体は弱いから振り解こうと思えば振り解けるのだが、頭が痛いせいでそんな気も起きない。いやどしたよ。俺、なんかやっちゃいました?




 「…はい」


 「…えっと…伊織?」


 依然として不機嫌そうなままの伊織に、半ば強制的に連れてこられたのは保健室の前だった。


 「…なんで?」


 「…旭、今日ずっと調子悪そうにしてたから…」


 あはっ!バレてました!まぁ、隠そうとも思ってないんだけどね。でも伊織にはまだ言ってないはずだが…。


 「よくわかったな」


 「あたりまえでしょ。何年一緒にいると思ってるの?」


 「ははは…」


 何言ってんだこいつ、とでもいう様な目で俺を見る伊織。

 これが幼馴染というやつか。こりゃ勝てませんわ。

 

 「でも帰るほどでもないから大丈夫だって」


 だるいけど。


 「だめ」


 「えぇ…」


 伊織の意思は固いらしい。


 「無理したっていい事ないでしょ」


 「いやでもね?」


 「い!い!か!ら!」


 そう言って伊織は保健室の扉を勢いよく開けた。

 あの…伊織さん?結構デカい音が鳴りましたよ?


 「ちょっと!他の人だっているかもしれないんだから静かに開けなさい!」


 「あ…す、すみません…」


 中にいた日比谷先生に伊織は怒られて縮こまってしまった。何してんのまじで。


 「まったく…って、佐倉君じゃない」


 「あ、ども」


 「久しぶりね」


 「そっすね」


 なんかよくわからないけど説教はしないでくれるっぽい。


 「それで、どうしたの?もう授業始まるわよ?」


 「あ、いえ、入る教室間違っちゃったっぽいんで、すみませんお騒がせしてす…」


 すみませんでした、働かない頭で違和感のない様に言おうとしたが、伊織にまた手首を掴まれてグイッと引っ張られ、バランスを崩しかけてしまう。


 「…っぶね、ちょ…」


 「先生、この子体調が良くないみたいです」


 「あら、そうなの?」


 「ちょ?!だから大丈夫だっ…」


 「い!い!か!ら!」


 「は、はい…」


 伊織の圧に押されて首を縦に振ってしまった。


 「…まぁ、わかったわ。それじゃ佐倉君はこっち入って。それで、あなたは?」


 「あ、私は大丈夫です」


 キーンコーンカーンコーン。


 そう伊織が言ったのと同時に始業のベルがなった。


 「そう、それじゃ後はこっちに任せて授業に行きなさい」


 「は、はい」


 伊織が申し訳なさそうに返事をすると、今度は心配そうな顔をして俺の方を見てくる。


 「…後でまたくるから」


 「あ、はい」


 それだけ言うと、伊織は走って体育館に向かって行った。廊下は走っちゃいけませんよ。

 伊織の姿が見えなくなったあたりで、日比谷先生が口を開いた。


 「付き合ってるの?」


 「いや、ただの幼馴染です」


 「あら、そうなの?残念」


 そんな事を言いながら俺に体温計を渡してくる。

 俺はそれを受け取って体温計を挟んで、大人しく座った。

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