第137話 体調不良?知らないねぇ

 「旭!いつまで寝てるの!学校行く時間だよ!」


 バレンタインも終わり、なんの面白みもない平日がやってきた。

 まだ覚醒しきっていない頭に、陽葵の大音量の声が響く。頭痛い。


 「ほら!早く起きて!」


 そう言って布団を剥がされる。寒い。


 「…寒っ…」


 「寒い?今日はあったかいほうだと思うけど」


 布団を剥がされ、寝る事を許されなくなってしまったので、仕方なく起きる。目の前には仁王立ちの陽葵がいた。


 「もう…また昨日遅くまで起きてたでしょ」


 「…あー…うん」


 昨日の夜、そんなに遅くまで起きてたっけか?なんか覚えてねぇや。


 「全く…あたし、先に学校行ってるから。鍵閉めよろしくね」


 「…うい」


 「聞いてる?」


 「聞いてる聞いてる」


 正直、陽葵の話は頭には入ってきていない。耳の穴から抜けてんじゃないの?


 「…ねぇ、大丈夫?」


 「…あ?何が」


 頭も痛いしぼーっとするしで、会話をしたい気分じゃないんだが…。


 「なんかぼーっとしてない?体調悪い?」


 「わからん、眠すぎて頭が回ってないだけじゃない?」


 「…ならいいんだけど…」


 そう言って心配そうに俺を見る陽葵。


 「…じゃあ、行くね?」


 「おう」


 「…大丈夫?」


 「大丈夫だって」


 「…うん」


 陽葵は俺の返事を聞くと、心配そうな顔をしながら俺の部屋から出て行った。

 さて、俺も準備しないとなぁ…。だりぃ…。

 そう思いながらも、俺は重たい腰を上げた。




 「おっす!旭!」


 「うるさ…」


 「いや、そんな大声出してないだろ」


 教室に入って早々、高橋が挨拶をしてきた。頭痛い。

 登校の途中で思ったんだが、これ風邪ですね。すっげー体がだるい。だから高橋君、話しかけないでほしいです。というかお前は喋るな。色んな意味で頭にくる。


 「おいおいどうしたぁ?いつもの元気がないぞぉ?」


 「殺す…」


 「ちょ、ま、早いって!」


 もうこいつには殺意しか向かないかもしれない。やっていいか?ヤッチャッテイイカ?


 「てかほんとにどうした?頭でも痛いのか?」


 「んあ?あぁ、そんな感じ」


 「風邪か?」


 「多分な」


 「あんま無理すんなよ」


 「へいへい…」


 一応心配はしてくれているらしい。でも正直、今の俺にそんな事を気にかけている余裕はないので、高橋を軽くあしらって自分の席に座って寝る体勢を取る。


 「おやすみ」


 「おい、ホームルームまで何分もねぇぞ?」


 「知らん」


 「知らんって…無理そうなら帰れば?」


 「今から帰るのがだるい」


 「まぁ…わからなくはないが…」


 あーやべ。高橋がなんか言ってるけどよくわからねぇや。てかほんとに眠くなってきた…。




 「…ひ…!さひ…!」


 ホームルームが終わって、今は午前最初の授業の最中のはず。やべっ、いつの間にか授業中に寝てたっぽい。


 「旭!」


 「うぇい!?」


 突然耳に入ってきた声で完全に目が覚める。

 周りを見ると、みんな次の授業の準備を始めていた。

 午前最初の授業が終わっていたらしい。国語の授業だったはずだが、内容がまったく入ってこないので、ほとんど催眠術だった。だから俺が寝てしまったのは悪くないはずだ。


 「早く準備しないと怒られるぞ」


 そう言ってきたのは高橋だった。俺を起こしたのも高橋らしい。許さん。


 「あー…次の授業ってなんだっけ…」


 「体育」


 「…は?」


 そういえばこいつ含めて周りのみんなも体育着着てるな。


 「… マジか…」


 最高にやりたくない授業が来てしまった。頭の痛さも体のだるさも、さっき寝ていたのに良くはならなかった。


 「あぁぁぁぁぁ…着替えるか…」


 「大丈夫か?」


 「あぁ大丈夫だから、先行ってろ。俺のこと待ってるとお前も遅れるぞ」


 「へいへーい」


 そうして高橋も教室から出て行くと、残っているのは俺だけとなった。

 とりあえず急いで着替えて準備をして、教室を出て、走って体育館に向かおうとする。が、止められてしまった。

 教室の扉を開け、走ろうとしたところで俺の手首が誰かに掴まれてしまった。

 急に後ろに引かれたため、少しバランスを崩してしまったが、なんとか体勢を立て直し、後ろの方を見る。


 「…伊織?どうした?」


 「…」


 そこにいたのは、何やら少し怒った様な顔をした伊織がいた。怒ってる?え?なんで怒ってるの?

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