第126話 佐藤は余計
「チョコ何個もらった?」
「うわっ、出たよ出たよ」
昼休みにもなると、苦手意識がある雰囲気にも慣れてきて、あまり意識せずに過ごせるようになってきた。
そんな時に掘り返すような話題を出してきたのは佐藤。こいつは一度処した方がいいと思う。
「出たよってなんだよ。ちなみに俺はゼロ個な」
「なんで聞いたの?」
聞いてくるからにはそれなりにもらっているものだと思っていたが、全然違った。それでも佐藤は誇らしげに胸を張って言ったのだ。
なんでだよ。お前の情緒どうなってるんだよ。
「家族が入らないなら俺もゼロだな」
興味なさげにそう言う高橋。
「あれ?お前って姉ちゃんいたっけ?」
「いや、母さん」
「もらえただけいいだろコノヤロウ」
母親からもらうバレンタインチョコとは、なかなか複雑なものだな。
でもまぁ、子供の事を想って渡したんだろうな。いいお母さんじゃないか。
「佐倉は?」
「家族が入らないなら一個」
「ぶっ飛ばす」
「なんでだよ」
「誰だよ?!誰からもらったんだよ?!」
「うるせぇ…」
「やめとけ佐藤。落ち着け」
暴走した佐藤を止めたのは高橋だった。
こいつは俺が誰からチョコをもらったのかを、だいたい察しているのだろう。
そんな事を考えている間に、佐藤は落ち着きを取り戻したが、がっくりと項垂れて頭を机の上に落とした。邪魔だわ、飯取りにくいだろ。
「今年もゼロかぁ〜!」
「そんなに落ち込むほどの事でもないだろ」
「もらったやつは余裕そうだな」
「いや、俺もゼロだから」
「うるせぇ羽虫」
「羽虫?!」
佐藤を慰めようとして、なぜか罵倒される高橋。
よし、今日からお前は羽虫だ。よかったな、羽ばたけるぞ。
未だに高橋と佐藤が言い合う中、俺たちの元に一つの人影が現れた。
「はい!哀れな君たちにプレゼントだよ!」
そんな快活な声と共に、横から机の上に、三人分の小包が置かれた。
おそらくチョコであろう、その小包を数秒見つめた後、俺たちはその小包をくれた主に目をやる。
「美波か」
「文句ある?」
「いや、ないけど」
あっさりとした反応が気に入らなかったのか、美波は若干ムッとしながら俺を見る。いやごめんて。
「テンキュー美波!普通に嬉しいわ!」
「旭君?流歌君くらい喜びなさいな」
「んなアホな。まぁ、ありがとな」
「最初からそう言いなよ」
「うるせぇ」
若干ニヤニヤしながらバカにするような目で俺を煽ってくる美波。腹立つなこいつ。
「…うおぉぉぉぉぉっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!初めてチョコ貰った!ありがとう小野寺!」
「え、あ、うん、それは、よかった」
「くぅぅぅぅぅぅ!!」
「うるせぇ」
「落ち着け佐藤」
「あはは…」
引くほどオーバーリアクションをとる佐藤。マジうるさい。
あげた美波本人も顔を引き攣らせるほどのオーバーリアクションだ。マジうるさい。
「俺もこれくらい喜べばよかったか?」
「ちょっとうるさい」
「えぇ…」
どうすればいいんだよ…。
「それじゃ、私は戻るから」
「おう、サンキューな」
「ありがとね」
「女神や…」
「お返しは十倍で」
「多すぎるだろ」
「じゃねー!」
そう言って美波は元の席に戻って行った。
「やべぇ〜小野寺さん、めっちゃいい人じゃん」
「そだな」
なんかもう、佐藤の話にいちいちリアクションを取るのが面倒になってきたな。
「惚れたわぁ〜…」
「単純すぎない?」
「アホや」
気持ちはわからなくもないがな…。
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